昨年11月、世界的な人気オンラインゲーム「フォートナイト」を手掛ける米エピックゲームズは、日本での2300万ドル(約35億円)の追徴課税を明らかにした。報道によれば、日本のユーザーへの「フォートナイト」の配信、課金は、エピックゲームズのルクセンブルクにある子会社によるもの。ただ、日本のユーザーが支払ったゲーム内アイテム購入代金およそ300億円は日本の消費税の課税対象だが、東京国税局の税務調査により、適正に申告されていなかったと分かった。税額は2020年12月期までの3年間分だが、海外企業に対する追徴課税としては、過去最大規模ということだ。

 会員制大型量販店「コストコ」を運営する日本法人も約14億円の消費税申告漏れを指摘されていたことが、やはり昨年11月にわかった。客に免税販売した商品の一部について、免税要件を満たしていないと指摘されたほか、税額の計算ミスもあったという。

 外国企業の消費税申告漏れでも、この2社の内容はかなり異なるが、デロイトトーマツグループで間接税が専門の溝口史子パートナーは「消費税に関しては、2024年は越境取引に関する消費税の課税強化元年」だといい、エピックゲームズについて次のように解説する。

「外国法人は日本に拠点を持たずにオンラインゲームの配信をできますが、2015年10月から課税ルールが変わっており、消費者がいるところで消費税を納める消費地課税になっています。海外法人にも日本の消費税について納税義務があったのですが、エピックゲームズがどのような理由で納税していなかったのかは定かではありません。オンラインゲームの会社は、アプリストアを運営するプラットフォームを介して配信していることが多く、日本以外だと、プラットフォームがVAT(付加価値税)やGST(物品サービス税)を納税するメカニズムになっており、プラットフォーム課税といいます。日本でも2025年4月1日以降の取引にはプラットフォーム課税が導入されます」

 オンラインゲームの場合、多くはコミッションエージェントモデルをとっているという。

「要は、ゲーム会社と消費者が直接契約を結んでいて、プラットフォームはアプリストアとして介在しているだけです。直接の売買はゲーム会社と消費者の間で成立しているので、日本の現在の消費税制度はその部分に忠実に、消費税対象のサービスを売っているゲーム配信会社に消費税を納税してくださいという制度をとっています。ただ、それも世界的に見ると、今はスイスとイスラエルと日本くらいしかありません。なので、多くの国外事業者が悪い気持ちはなくても、アップルのアプリストアで販売した分はアップルが納税してくれているのではないかと思ってしまうわけです。でも、これらのアプリストアも税理士に相談することを推奨しており、多くの外国法人がちゃんと納税されているので、30億円という巨額の金額には、何か事情はあったのだと思います」

10年ほど前から国際的な租税回避論点は指摘されている

 グーグルやアップルなどに代表される巨大IT企業は世界中で利益を生み出す一方で、その利益は経過税国に集めているのではないかという国際租税回避への批判が数年前まで高まっていた。実際、5年ほど前から日本においても相次いで申告漏れの報道がなされている。

 2016年9月、米アップルの子会社「iTunes」は音楽や映像の配信事業の利益移転をめぐり、東京国税局から120億円の追徴課税を受けていたことがわかった。2019年1月には、米グーグルの日本法人「グーグル合同会社」が2015年12月期に約35億円の申告漏れを指摘されていたことが報道された。グーグル合同会社はシンガポール法人の業務支援で、日本国内の広告主への営業活動を行っているが、広告主からの広告料はシンガポール法人に支払われている。東京国税局は、シンガポール法人から受け取る手数料が少ないのではと指摘した。

 同じ2019年には米メタ(旧フェイスブック)の日本法人も約5億円の申告漏れを指摘されている。日本国内の広告料はメタのアイルランド法人に支払われていて、日本法人は手数料を受け取っていた。

 米ネットフリックスの日本法人であるNetflix合同会社も東京国税局の税務調査を受け、2019年12月期までの3年間で計約12億円の申告漏れを指摘され、過少申告加算税を含む法人税などの追徴課税として約3億円の納税を求められた。その際、同社が国内で取得した映画の配信権などをグループのオランダ法人に譲渡し、業務に見合った利益の分配を受けていないと判断された。

 また、過去に遡ってみると、アマゾンジャパンはかつてアマゾン・ドット・コム米国本社から販売業務の対価として受け取る業務委託報酬を主な売上とし、日本国内で納める税金を低く抑えていたと指摘され、2009年には米国本社の関連会社が東京国税局から140億円前後の追徴課税処分を受けた。当時、アマゾンジャパンは「課税は不適切」とコメントし、米国本社側は日米の二国間協議を申請した。ちなみにアマゾン米国本社が発表している年次報告書によると、2014年の日本での売上高は79億1200万ドル(約8700億円)、同年のアマゾンジャパンとアマゾンジャパン・ロジスティクスの売上高は合計で899億円強、法人税が約10億8000万円となっており、これによってアマゾンジャパンが決算資料上の法人所得を低く抑え、日本国内で支払う法人税等を低く抑えていたという見方もあった。

 デロイトトーマツグループで国際税務が専門の結城一政パートナーは「国際的な税務回避は従来からあるものであり、ここ最近始まったようなテーマではない」と言い、次のように解説する。

「10年以上前から、BEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食及び利益移転)はOECDを中心として議論されてきたテーマです。いわゆるデジタル系企業だけでなく、金融やリース、製薬など国際的な企業はさまざまなタックスプランニングをしています。それは決して脱税が目的ではなく、合法的な枠組みの中で、税務コストをどう最小限にするかというビジネス的な枠組みから端を発したものと見ています。一方、確かに、デジタル系企業は収入の主体が無形財産や知的財産でのロイヤリティーであったりしますし、プラットフォームカンパニーであればプラットフォームの使用料という形だったりするので、製造業のような形のあるモノと違って所得が移転しやすいという特徴があります」

 BEPSとは、多国籍企業が本来経済活動を行っている国から意図的に利益を移転し、本来納付されるべき税金の源泉が浸食されている状態をいう。OECDは2012年にBEPSプロジェクトを立ち上げ、BEPS防止措置実施条約が2016年11月に採択された。日本を含む67カ国・地域が2017年6月に署名した。日本の国税当局も当然のことながら、このBEPSの理念に基づき、税務調査を行っているわけである。