ではシリア政府はこれに対してどう動くのでしょうか?アサド大統領はロシアとの強い関係を強化します。ただ、個人的には今回はもう少し面倒な事態になるとみています。ロシアはウクライナとの戦争で手一杯なのです。一方、イスラエルとヒズボラの停戦が行われたことでヒズボラはもともとあったシリアでの足場を利用し、イランと共に政府および政府軍を支援し、シリアにおける代理戦争を継続支援する公算は高いと思います。
トランプ大統領は前任期の際、シリアから米軍の撤退を2度表明、2度それを撤回しています。トランプ氏ですらその泥沼からは抜けられませんでした。バイデン政権下で米軍は駐留のみで戦闘はしないという形で27か所程度の場所に約2500人程度の米軍をシリアに置いています。トランプ氏が再度大統領になった時、関与したくないシリア問題に否が応でもつき合わされることになります。
言い換えればウクライナ問題とイスラエル問題は別事象と思われていたのが地理的にもちょうど間にあたり、微妙ながらも関連性ができてきたのがシリア内戦にも見えます。
国際社会は戦争疲れしつつあり、シリア内戦にまで積極的に関与したいとは思っていないでしょう。またフランスをはじめ、欧州のシリアへの関心はトルコ経由であふれだしてくるシリア難民の問題があり、それを食い止めることにあります。
では西側諸国が支援する反政府派が仮に「遅咲きのアラブの春」を引き起こしたとしましょう。果たしてシリアが民主化し、安定化するかといえば個人的にはもっと複雑になるだろうとみています。アサド氏がいなくてもヒズボラはより積極的にその支配権を利用するでしょうし、ISILのような過激派が戻ってくることもあり得ます。それ以上にクルド族としては自国を持ちたいという強い願望のもと、激しい独立運動を展開するはずです。すると反政府派が支配する新しいシリアなど一つもまとまらず、自立もできず、無政府状態が続く可能性の方がはるかに高い気がするのです。