2015年8月27日、東京霞が関の経済産業省庁舎前に、「呪殺祈祷僧団四十七士(JKS47)」なる僧侶の集団が現れ、「呪殺」祈祷会を開催した。祈祷会は当時の安倍政権退陣を祈念したものらしく、日蓮宗本國寺の住職、上杉清文が主催したというが、いかにも受けを狙ったような「JKS47」という名称からしても、一種のデモンストレーションとみなしてよいだろう。
ところが世界には、そのような笑いごとで済まされないような事例がいくつも起こっている。20年ほど前イスラエルでは、ユダヤ教過激派が時のイスラエル首相に対し、ユダヤ教の強力な呪いの儀式を行ったことがある。しかもその直後、呪いをかけられた首相は脳梗塞で倒れ、結局意識が戻らぬまま2014年に死亡したのだ。この呪いの儀式は「プルサ・デヌーラ」と呼ばれており、儀式の手順を少しでも間違えると術者に呪いがふりかかるという、いわばユダヤ教の“究極奥義”ともいうべきものである。
■本当は恐ろしい「天使」
さて、この呪いの儀式の詳細に入る前に、まずは謎の天使「メタトロン」について解説しておく必要があるだろう。
天使と聞くと、読者の皆さんは何を思い浮かべるだろう。たいていの人は、優しい顔をして翼を持ち、親切そうな人物像をイメージするのではないだろうか。こうした一般的な印象は、「あの人は天使のようだ」とか、「君は僕の天使だ」、とかいった月並みなセリフにも反映されている。
しかし、聖書をしっかりと読めば、そうした天使のイメージは必ずしも正しくないものとわかるだろう。たとえば『旧約聖書』の「列王記下」第19章第35節には、天使がアッシリアの軍勢18万5,000人を一夜のうちに皆殺しにしたと記されている。「ヨハネの黙示録」で、この世の終りを告げるラッパを吹き鳴らすのも天使の役目であり、イスラム教の天使ムンカルとナキールは、死後の不信心者を罰するのが役目だ。さらに人間の命を奪う死の天使も存在する。
このように、天使というのは神の命令に忠実に従う怜悧(れいり)な官吏でもあり、時には人類の殺害さえ厭わないことがわかる。こうした天使の姿は、未完に終わった石ノ森章太郎の代表作『サイボーグ009』天使編にも登場している。
一般には、普通の天使の上にミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエルの四大天使が君臨すると信じられているが、実は法王グレゴリウス1世(在位590~604)の時代に、「聖秩」と呼ばれる天使の階級が定められている。この「聖秩」には9階級があり、最上級の熾天使(セラフィム)以下、智天使(ケルビム)、座天使、主天使、能天使、力天使、権天使、大天使、天使といった序列が定められている。
こうした無数の天使の中で、何者が最上位にあるかについては議論があるが、しばしば神に一番近い座を占める天使として名が挙がるのが「メタトロン」である。
メタトロンは時に「天使の王」、「契約の天使」などと呼ばれ、ユダヤ教の伝承のなかでは有名なミカエルを抑えて、しばしば最高位の天使として語られる。一部の伝承では、並み居る天使たちの中で彼だけが神の御前に出ることを許されているともいう。他方メタトロンについては、人間に死をもたらす破滅の天使であるとも伝えられている。