もしもこれから訪朝秘密会談ないし、第三国での秘密会談に臨むなら私ならベストな人選として上川陽子外相だと思っています。

ではなぜ電撃にすべきなのでしょうか?それは世論がうるさいからです。例えば拉致問題の家族会はテレビなどで頻繁にお見掛けしますが、実態は「救う会」(北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会)が実務を牛耳っているとされます。

「救う会」の会長は今は麗澤大学の西岡力先生です。西岡先生とは7〜8年前だったと思いますが、私も東京で半島研究者が集まる学者会議に呼ばれて意見陳述などでやり取りしたことがあります。学者先生にもいろいろなグループがあり、西岡先生はかなり保守派の先生であります。

救う会には筋の良くない人も絡んでいるという話もあり、もしも岸田氏が訪朝することが事前にわかっていると極めて思想的な展開が予想され、バランス外交ができなくなる公算があります。それを防ぐには前述の通り、実務者が道筋をつけ、そこに沿った首脳会議を執り行う筋書きを岸田氏が誰にも邪魔されずに行うことが最重要になります。

では成果について何を期待すべきか、です。まず、拉致被害者の件については個人的には解決はたやすくないと思います。そもそも現時点で何人生きているのか、その上、生きていても思想教育を施している可能性が極めて高いはずですのでご家族が期待した形になるのかある意味、怖いのです。金氏にとっても自分が生まれる前の話です。扱いにくい話ではあるかと思います。

拉致被害者最優先主義は第一期安倍政権の方針で打ち出したものですが、それが北朝鮮を貝に例えれば、固く閉ざした原因ともされます。トランプ氏は金氏をロケットマンと揶揄しながらも対話姿勢を見せたからこそ、成功裏ではありませんでしたが、金正恩氏が胸襟を開いたとも言えます。

私が期待するのはまずは西側諸国と久々の国際会談を行うこと、そして岸田氏が上述の山積する問題について丁寧に説明するところからスタートすべきでしょう。つまり一度や二度の訪朝で成果を期待するのではなく、日朝が対話できるテーブルを作るという合意だけで十分な成果だと思います。

もっとも金正恩氏はちゃぶ台返しをする可能性も高いと思います。が、それを言ってしまっては外交は何も始まらないのです。まずは道筋を作ることから始めるべきです。例えば北朝鮮が韓国との関係をあたかも戦時体制のごとく表現していますが、このような不必要な緊張は国際平和の観点から緩和させる努力をしなくてはいけません。

西側諸国や国連はすぐに制裁という言葉を使いますが、これは東アジアのメンタリティではあまり効果的ではないと考えています。ムンクの叫びではありませんが、相手が何を欲しているのか、聞く耳をもつことも外交の手段です。その点では岸田氏は適任でしょう。

自民党の立て直しに時間がかかる中で岸田氏は当面、得意の外交でポイントを稼ぐしかありません。その点からも私は何か、策略を練っているのではないかという気がしてなりません。

では今日はこのぐらいで。

編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年5月13日の記事より転載させていただきました。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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