今年の能登半島地震に対する見舞電報あたりから風向きが変わった北朝鮮関係。岸田首相は訪米した際にバイデン大統領に仁義を切り、「岸田が訪朝し、金正恩氏と会談することへのコンセンサスをとった」ということになっています。仮にバイデン氏のコンセンサスであればアメリカ大統領選の結果が出る前に実行することが望ましく、秋の総裁選の前に行うことが戦略的とも言えます。

ではそれが実現する可能性があるのか考えてみましょう。

まず、何のための訪朝か、です。

表向きは拉致被害者問題の解決を第一義にもってきていますが、それ以外にも度重なるミサイルの発射実験、サイバーテロ問題、アンダーグラウンド経済、大きなピクチャーでは朝鮮半島の安定化という題目もあります。特にロシアの下請け化が顕著で軍備増強を主眼とする現在の金氏の姿勢にストップをかけること、韓国との対話路線への回帰を促すことなどイシューは山積しています。一方、金正恩氏が西側首脳と会ったのはトランプ氏との数度の会談だけであり、閉ざされた社会に風穴を開ける必要があります。

拉致被害者家族と面会する岸田首相

グローバルな見地からは対話外交の再開という位置づけがやりやすいのだろうと思います。特に金氏が尹錫悦韓国大統領と厳しい関係に陥っている中、間を取り持つ役目も必要でしょう。一部には岸田氏が金氏と会談すれば尹錫悦氏は対日関係を見直すのではないか、という見方もありますが、私は逆で日韓関係を強化するために尹錫悦氏の意志を伝えるという使命を持たせるべきかと思います。

このような外交戦略を考えると2つの準備作業が必要です。1つは実務レベルでの事前交渉をどなたかが訪朝して行うこと、2つ目は岸田氏の訪朝が電撃訪朝であることです。

事前の実務者交渉は外交において必須のプロセスであり、この実務者交渉が実りあるものにならない限りトップ会談は実現しません。では誰が事前に行くのか、です。小泉純一郎氏が訪朝した時は田中均外務省アジア太平洋局長(当時)が1年以上かけた秘密裏の調整を行ってきました。もしかするとすでに秘密交渉が進展しているのかもしれません。そうであるなら夏までに大枠の話ができるのか、これが岸田氏にとっての訪朝のキーになります。