日経新聞は「史上最高値を視野、『割安日本』」に投資マネー」(14日)と高揚感に満ちた紙面編集です。「上昇企業の好決算が歴史的な株高を支えている」(同)と。この「歴史的な」という表現は証券業新聞ならばともかく、一般経済紙ならば使ってほしくない。
数字だけからみて「歴史的な株高」というのはどうなのでしょうか。これも遊びのつもりで「株を買わないで、資金運用していたらどうなったか」。chatGTPに質問してみましたら、「過去30年間の平均短期プライムレート(ゼロ金利の期間を含める)は3%。仮に100万円をこの金利で運用していれば、現在7.6倍になっている」と、回答してきました。
株を保有していたため、大損をしていたということになります。単純に考えれば、日本の株価も3万8915円の7.6倍になっていれば、預金に負けていなかった。chatは「米国のダウは直近の30年間で3千754㌦が3万400㌦(昨年12月現在)となり、9倍になった」とも答えています。
バブル経済退治のために、しばらく高インフレが続き、日銀は公定歩合を6%まで引き上げました。この10数年のゼロ金利を含めても、過去30年間の短期プライムレートは3%と高い。ですから、銀行預金で運用していても、かなりの運用益がでていたはずです。
さらに「EU(欧州連合)の株価は、ユーロストック50指数で4倍になった。ドイツ8.5倍、仏3.4倍、英2.3倍」とのことです。日本はやっと34年前に戻ったのですから、1倍ということです。「1倍に戻っただけなのに、株価が最高値(更新)」とかいうのは、おかしい。
単純計算にしても、他国と比較すれば、「過去30年間で、株価は米国は9倍、EUは4倍になったのに日本は1倍に過ぎないことの意味を考えよう」というのが正解でしょう。日本の最高値はインフレ・スライドなら5万7000円、インフレによる実質価値を勘案すると2万700円に減価になる。
日経のいう「歴史的な株高」は国際比較の視点が欠けた視野の狭い記事ということになります。大雑把でもいいから、いろいろな計算値を比べてみてほしい。
30年前のバブル経済のピークの頃、地価も暴騰し、「皇居の土地を売ればカリフォルニア州が全部買える」、「東京はニューヨークをしのぐ世界の金融センターになる」と、真顔で議論する専門家もいました。現在の株価を指して「歴史的な株高」という記者らは過去を学んでいません。
株価の国際比較以上に懸念すべきは、日本のGDPがドイツに抜かれ、世界4位に転落という公式発表です。ドイツのGDPが物価高で膨張し、さらに日本は円安(1㌦=150円)が進み、ドル建てでみたGDPは4兆2100㌦、対するドイツは4兆4500㌦で、逆転されました。
外人投資家は日本のゼロ金利で円建て資金を調達し、日本株に投資すれば、簡単に儲けられる。日銀総裁は「金融政策を転換するとしても、大規模金融緩和は維持する」と表明していますから、どんどん金利が上げるようなことはないと保証してくれています。人がよすぎます。
国内投資家には、証券会社の勧めで外国株、債券を買う人が多いらしく、円安要因になる。円安で輸入物価が上がり、暮らしに影響がでる。昨年後半、2四半期連続のマイナス成長になったのは、物価高による消費節約の結果でしょう。スタグフレーション(不況下の物価高)の気配があるのかもしれない。とにかく日本の金融財政政策は、ちぐはぐなのです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年2月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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