高島屋の「上場企業」としての責任は大きい。

ケーキが崩れた程度でこれだけ騒ぐなんて日本は平和、高島屋が危機管理に失敗したところで当事者以外は関係ない、と考える人は多いかもしれない。しかし実際は大いに関係がある。

東証プライムに上場する高島屋は上場企業として半ば公的な存在であり、株式市場は国内外の年金資産など極めて公的な資金が運用される場所だからだ。

更に、金融緩和の一環で日銀はETFを通じて日本企業の上場株式を約50兆円も保有している。これらの理由から上場企業の言動は日本人にとって決して無関係の話ではないということになる。

筆者が高島屋の株主であれば、なぜ原因の特定をしないのか?それによるマイナスの効果を考えないのか?と確実に苦情を入れると思うが、決して大袈裟でなく上場企業のトラブルは(間接的とはいえ)全ての日本人が株主として関係する。

代表権のある専務が会見で話した以上、企業として正式に原因特定を放棄したことは間違いないが、この決定が企業価値の向上に繋がるとは到底考えられない。百貨店の企業価値はそのブランドにあり、ブランド力がなければどこで買っても同じと顧客に判断されてしまう。

百貨店の「売り物」はブランドである。

筆者の母親は何か贈答品を贈る際には必ず三越で買い物をしていた。

品質への信頼はもちろん、白地に赤い模様の入った三越の包装紙にくるまれたモノをプレゼントすれば絶対に間違いは起きない、受け取った相手も喜んでくれる、安心して受け取ってくれる、と絶大な信頼を寄せていたからだ。これはバラの包装紙の高島屋も全く同じだ。

今回の問題は冷凍ケーキによる1500 万円分の売上げではなく、高島屋のブランド価値が問われる話であり、百貨店の企業価値はブランド力が全てだ。しかもこれだけ大きな話題となり、新聞とテレビでも大きく報じられた事から全世代に冷凍ケーキのトラブルが伝わったことは間違いない。

原因の特定を放棄した高島屋の経営陣は、たかがケーキ、たかが1500 万の売上と勘違いしているのかもしれないが、ブランド力を売り物とする百貨店ビジネスの基礎の基礎を理解していないのではないか。

この決定に納得が出来ない株主は、原因特定の再調査を要求することはもちろん、経営陣がどのような経緯で原因特定を放棄すると判断したのか、意志決定のプロセスが適切だったか調査を要求すべきだろう。これは社会的な責任を負う上場企業のガバナンス(企業統治)に関わる重大な話でもある。

崩れたケーキの評判はSNSで、そしてあらゆるメディアで拡散し、すでに取り返しがつかないほどのダメージを会社に与えており、調査打ちきりで更に追い討ちをかけた経営陣の責任は極めて重い。

人間のやる仕事では必ずミスが起きる。しかしそのリカバリーで失敗したことは言い訳のできないミスである。危機管理の失敗はケーキが解けてグチャグチャになった事より大きな問題であり、経営判断のミスであることは間違いない。

蛇足として、まともな社員と役員がこの決定に反対の声をあげ、早ければ年明け早々にも調査が再開されるであろうことも予想しておく。

中嶋 よしふみ  FP シェアーズカフェ・オンライン編集長 保険を売らず有料相談を提供するFP。共働きの夫婦向けに住宅を中心として保険・投資・家計・年金までトータルでプライベートレッスンを提供中。「損得よりリスクと資金繰り」がモットー。東洋経済・プレジデント・ITmediaビジネスオンライン・日経DUAL等多数のメディアで連載、執筆。新聞/雑誌/テレビ/ラジオ等に出演、取材協力多数。士業・専門家が集うウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインの編集長、ビジネスライティング勉強会の講師を務める。著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」

編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年12月30日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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