原因の絞り込みは可能。

ケーキに限らず、食品分野では有名シェフやレストランとのコラボ商品は珍しくない。スーパーに行けばコラボ商品は無数にある。

他分野でも、例えばユニクロと有名デザイナーのコラボレーションは大成功を収めている。

ファブレスと言って自社で工場を持たずに生産をすることも当たり前のように行われている。アップルは工場を持たず、iPhoneがフォックスコンという台湾企業の工場で生産されていることは有名な話だ。こういったやり方はOEM(相手先ブランド製造)と言って製造業ではもはや珍しい話ではない。

コラボやOEMとなれば関わる企業の数も増える。冷凍ケーキもこのような形で作られた事で複数の企業が密接に関係し、配送会社も疑われている。

冷凍ケーキに関わった企業は、高島屋と製造工場、ヤマト運輸、レ・サンスと主に四社だが、一番小さいレ・サンスが一番大きなダメージを受けている。

高島屋による謝罪会見では、原因の特定が困難であるとされたが、ある程度絞り混むことは可能なはずだ。ケーキが顧客に届くまでの工程を大きく分ければ以下の5つになる。

企画、製造、出荷、集荷、配送

この中で真っ先に消えるのは配送だ。各家庭に届ける段階で解けたのなら、冷凍ケーキ以外に他社の商品でも多数の被害報告がなされているはずだが、現状でその様な話はない。高島屋の冷凍ケーキにだけ被害が集中して発生した理由としてまず考えられない。

一つや二つくらいはそういった事例もあったかもしれないが、これだけ多数の被害を説明するには無理がある。あるとすれば配送より前、大量のケーキをヤマト運輸が受け取った「集荷」の段階ならばあり得るかもしれないが、現状では冷凍庫の温度に問題は無いという。

昨年もほぼ同様のケーキが問題なく届いており、なおかつ五年前から販売しているということで企画(監修)に問題があったことも考えられない。レ・サンスのオーナーは味や形に限らず、配送段階で崩れないように実験も厳密に行っていたと言い、取材に対して以下のように答えている。

「配送の問題、崩れないようにできるか全部実験でやっていた。僕が実験で見ている以上では、上から落とさないとああいうふうにはならない」 (崩れたケーキ 監修シェフ“何度も試した” 製造会社「原因不明」 ヤマト運輸は…(日テレNEWS NNN 2023/12/26)

そもそもデコレーションケーキを冷凍して配送するなんて無理があるといった批判も多数あるようだが、それは的はずれということだ。そしてこの話でレ・サンスの企画や監修に問題があって崩れた可能性も消えることになる。

イチゴの入荷遅れが原因? 噂話を蔓延させる高島屋の責任。

各種の報道を見るとイチゴの入荷が遅れてギリギリのタイミングに製造した、結果として冷凍にかける時間が極端に短くなった、これが原因ではないか?とも報じられている。

もちろんこれも推測でしかないが、仮にこれが原因であればイチゴの調達が遅れしまい、配送に耐えられる固さに冷凍することが困難だったにも関わらず事前にキャンセルをしなかった、ということで高島屋の責任になるだろう。

他にもSNSやニュースを見ていると、流通の専門家や工場で働いた経験があるという人から、憶測が多数でており、中にはこれが原因に違いないとバズっている話も複数ある。

例えば「工場で製造した後に、箱詰めして冷凍庫まで運ぶ途中でケーキをひっくり返したしまい、本来なら報告しないといけないのに怒られるのが嫌で報告しなかった人がいたのでは?」といったような話だ。

もっともらしく聞こえるが、800個ものケーキをひっくり返したのか?と考えればこういった個別のミスであることは考えにくい。

年末の冷凍便は大量の荷物で忙しい、どこで解けてもおかしくないと言った指摘も多い。最近では物流がパンク状態であることがたびたび報じられているためそんな風に考えた人も多いだろう。筆者も当初は配送途中で解けたと思い込んでいた。

しかし、これも前述の通り800個も解けて崩れていたのなら他の商品も同様に解けて崩れているはずで、配送段階で解けたことは考えられない。もっと前の段階で大量に解ていて、それが個々の配送段階で崩れた可能性はあるかもしれないが、そうであれば配達したドライバーの責任とは言えない。

このような的はずれな憶測が蔓延する理由は高島屋がこれ以上の調査をしないと断言しているからだ。アレコレと推測をすることはいくらでも可能だが、憶測で犯人扱いされた企業はたまったものではない。

結局は調査をして原因を突き止める必要があり、最低でもどの段階で崩れたのか、あるいは解けたのか、絞り込みをしないかぎり風評被害はやまないということになる。

高島屋は「スカスカおせち」の教訓に学べ

代表権のある専務が早期に謝罪会見をしたということで、高島屋も重大なトラブルであることはある程度認識をしていたのだろう。しかしそれでもまだ甘いと言わざるをえない。

冷凍ケーキ騒動は「スカスカおせち」を彷彿とさせる、そんな指摘も多数目にした。

これは2011年1月に、当時大流行していた共同購入型クーポンを提供する「グルーポン」が起こしたトラブルだ。1万円でおせち料理を販売したところ、実際に届いた商品が見本の写真とあまりにもかけ離れており、量も少なくまるで残飯のような酷い見た目だったことから大炎上した。

このトラブルは共同購入型クーポンのブームを一気に冷え込ませるほどの影響があり、しばらくは毎年正月になるたびにスカスカおせちの話題がぶり返された。

スカスカおせちが多くの人の記憶に強く残った理由は、当然のことながらおせちの写真に強烈なインパクトがあったからだ。そしてもう一つの理由が、正月という毎年行われる季節の大きなイベントに関わるトラブルであり、なおかつそのイベントを最も強く象徴するモノ(おせち料理)だった事で、スカスカおせちは長く語り継がれることになった。

クリスマス当日に崩れたケーキで大炎上、という今回のトラブルはスカスカおせちと全く同じ条件を満たしている。来年以降のクリスマスシーズンには冷凍ケーキの話がぶり返されることは間違いない。

クリスマスではなくても今後は崩れたケーキが、あるいは崩れた食品が「高島屋状態w」などとネットで揶揄される可能性も非常に高い。当然、そのたびに高島屋のブランド価値は毀損される。

高島屋の誤算と勘違い。

高島屋はトラブルの話が長引く事を嫌って謝罪会見を素早く行い、返金・返品の対応、そして原因不明で調査打ち切りと宣言することで幕引きをはかりたかったのかもしれない。

しかし、数日で原因不明とか調査打ち切りなんておかしいと購入者の声が報じられ、監修のレ・サンスまで原因特定をすべきと声をあげるなど、幕引きどころか炎上に燃料を追加した状況だ。

高島屋の経営陣はトラブルの影響がスカスカおせちのように広く長く及ぶことを想像できているのか?と考えると、危機管理の対応として最悪と言わざるを得ない。

今回のケースでは原因を明らかにすることも顧客への謝罪の一環であり、それはとばっちりとも言えるレ・サンスの風評被害をとめることにもつながる。

今後も原因不明のままトラブルを放置するのなら、高島屋に出店しているケーキやスイーツのお店にも影響は出かねない。おそらく多くの企業がこの騒動をイライラしながら見ているだろう。現在は冷凍の宅食弁当が急激に増えているが、今回の騒動はそういった通信販売で冷凍食品を扱う企業にも影響が出かねないほどの大炎上だ。

冷蔵庫と別にストック用の冷凍庫も家にある筆者は、ここ数ヵ月でケーキも含めた多数の冷凍食品をネット通販で購入したが、崩れていた商品は一つもなかった。やはり今回の冷凍ケーキ騒動はあまりに異常と言わざるをえない。このような異常事態を原因不明のままで乗り切れると高島屋の経営陣が考えているのであれば、株主から会社経営を任された立場として無責任の極みだ。