最近、営業やマーケティングの話がさまざまなところで語られるようになり、士業業界としては決して悪いことではないのですが、こういった基本的な商売人としての姿勢は忘れてほしくありません。

ところで、専門分野を絞ったほうが営業的には成功しやすいのですが、よく心配されることがひとつあります。それは、専門分野に絞った結果、他の仕事がこなくなったらどうしようというものですが、次はこれを解説していきましょう。

段階的に専門を絞ることで、紹介は増えていく

ビジネス戦略的な解説をすると、まずは絞る専門分野を決めます。そして、実際に仕事を受注した後に、専門分野以外の仕事の提案をします。

たとえば、就業規則専門の社会保険労務士が就業規則の仕事を取った後、「弊所では他にも助成金の申請や給与計算、それから人事評価制度のご提案などもできます」といったような提案をするのです。すでに信頼して仕事を任せてくれたお客様に提案するのですから、お客様も警戒することなく聞いてくれます。

このように、焦ることなくお客様候補と出会った入り口で複数提案をするのではなく、仕事の終わりという出口で複数業務の提案をします。これを私は「出口戦略」と呼んでいます。

私の場合は、このセオリーどおりに進んできたわけではないですが、創業当初は専門分野を絞らず「行政書士」として営業してきました。そのため、受ける仕事はさまざまで、前述のような行政手続きも民事的な仕事も受けてきました。

そして、ある時を契機にもっと起業家や経営者と仕事がしたいと考え、「会社設立」に特化しました。徐々に会社設立の専門家として認知され、行政書士という資格の名称より「会社をつくる人」として覚えられ、仕事は紹介で増えていきました。

最終的に会社設立の本まで書かせていただくようになりましたが(『株式会社はじめての設立&かんたん登記』技術評論社刊)、その間、会社設立以外の仕事をしなかったわけではありません。契約書、相続、内容証明、遺言書などの仕事もお客様に出口戦略で提案し、仕事を受けてきました。徐々に会社設立だけでも事務所が回るようになり、設立の仕事以外は別の先生をご紹介するようになりましたが、今でも他の業務で培った経験は生きています。