「もしも自分の街にゾンビが現れたら……」ゾンビパニックものの映画やドラマを見ながら、一度は考えたことがあるのではないでしょうか。
先日Xで、青森県八戸市が10月26日に実施した「総合防災訓練」の中に、「対ゾンビ避難訓練」というユニークな項目があることが話題になっていました。
そこで八戸市に問い合わせて訓練の詳細を取材。見えてきたのは「ゾンビ」というキャッチーなテーマに隠された、災害対策・避難対応への真剣な思いでした。
■ すでにアメリカで実施例が?八戸市「対ゾンビ避難訓練」が導入されるまで
「対ゾンビ避難訓練」を実施しているのは八戸市の災害対策課。担当者の方によると、導入のきっかけは2021年秋ごろに、とある市議会議員から提案があったことだそう。
海外で「対ゾンビ避難訓練」の実施例があることから「同じことを八戸市でも実施できないか」というものでした。
八戸市が確認したのはアメリカでの事例。アメリカ国防省は訓練シナリオ・CONOP8888として「対ゾンビ作戦」を実施していました。
これはアメリカの大手メディアCNNにも取り上げられており、「軍事計画や治安・秩序の基本概念を学ぶ」ための訓練用に作られた架空のシナリオです。ゾンビにしているのは、実際にある計画と勘違いされないためだとか。
またアメリカのイリノイ州では2017年に、10月が「ゾンビ対策月間」に指定されました。
こちらは訓練ではなく、州民に対し、自然災害・非常事態について自ら学び、水や食料などの物資の備蓄を準備するよう促すもの。州が想定している事態の中にはゾンビの大発生も含まれています。
リリース内に「And we know, if you are prepared for zombies, you are prepared for a natural disaster.(=ゾンビ災害への備えは自然災害への備えになる)」とあることから、ゾンビはあくまで州民の興味関心を高める要素の1つ。根本は「あらゆる非常事態への対策・意識強化」のようです。
2つの事例はともに、映画やゲームなどゾンビ関連のコンテンツを多数生み出している“ゾンビ大国”アメリカならではの発想と言えるでしょう。
そしてキャッチーでありながらも根幹の部分は「非常事態への備え」であるため、汎用的な避難訓練として十分に成立しそうです。
ただ日本ではゾンビはあまり馴染みのない存在。ですのでアメリカの実施例をそのまま持ち込んでも「興味本位で終わり、効果が薄くなる」というのが八戸市の懸念でした。
そこで市はゾンビというワードで住民の方々の興味を引きつつも、主題はあくまで「自然災害への備えや避難行動を具体的に伝えること」とし、検討段階で生じた懸念を払拭。
独自の「対ゾンビ避難訓練」を作成し、市が毎年行っている「八戸市総合防災訓練」の中の防災教育の一環として、2022年度から実施し始めたとのことです。
■ シチュエーション劇を通して学びを得る観覧型の訓練!参加者からは「けっこう怖い」
実際に八戸市の「対ゾンビ避難訓練」はどのような内容なのでしょうか。
担当者の方にうかがうと、訓練は寸劇あるいは会話劇の形式で行われる、観覧型の訓練とのことです。
劇のテーマは「避難の大切さ」。
大人たちが「正常性バイアス」にかかって避難を躊躇するなかで、子どもたちが率先して動き出す「率先避難者」となり、大人たちを避難行動に誘導する、という内容だそうです。
内容からも分かる通り訓練の主役は子どもたち。そのため自衛隊・消防・警察などの防災関係機関にくわえ、訓練には実施地域の小中学校、高校も参加しています。
劇ということもあり、起震車や煙体験ハウスのように参加者が自ら体験し、対応方法を学ぶものではありません。
訓練からどのように学びを得るのかについて、市の担当者は「観覧する側には、地域の児童や若い生徒たちが演ずる姿に学んでいただく、また、演ずる側も、劇を作り上げていく経過において何らかの学びがあればと期待しております」と話しています。
実際、訓練に参加した児童や生徒からは「避難の大切さが理解できた」「ゾンビ=災害はけっこう怖い」「学校で習った災害対応をきちんと身に付けたい」といった感想が出ていたそうです。