シュピーゲル記者はその答えには満足せず、「トランプ氏の再登場による挑戦は2016年の最初の時より一層強まったか」と聞いている。それに対し、メルケル氏は「現在はトランプ氏とシリコンバレーの大資本を有する企業との連合が生まれてきている。宇宙空間を旋回する人工衛星の60%を保有する企業オーナー(イーロン・マスク氏)がトランプ氏を支援しているとしたら、われわれは更に多くの政治的な問題に関わらざるを得なくなるからだ」と説明している。

それでは「マスク氏はトランプ氏より危険か」という質問に対し、メルケル氏は「政治が大資本の言いなりになったり、その影響に屈するようだと、世界の全てにとって未知の挑戦となる」と述べるだけに留めている。

2015年の中東・北アフリカからの大量難民の殺到とメルケル氏のウエルカム政策についても厳しい質問を受けているが、興味深い点は、やはりメルケル氏のプーチン大統領への評価だろう。メルケル氏は2000年、大統領に就任したプーチン氏と初めて会合しているが、「わたしは彼について何も思い込みなどしていない。彼が独裁的な言動で、自分が常に正しいと考えている人間であることを感じたが、彼が後日、ウクライナに侵攻するとは考えていなかった」と述懐している。

シュピーゲル誌記者から「あなたは2008年のブカレストで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会談でウクライナのNATO加盟に反対した」と質問されると、「私はウクライナとグルジア(現在のジュージア)の加盟(正式な加盟行程=Membership Action Plan, MAP)には反対したが、近い将来、両国の加盟が実現できるように保障すべきだとの立場だった」と説明している。

ちなみに、メルケル氏は後日、ウクライナの加盟を阻止した張本人としてウクライナ側から批判を受けている。ゼレンスキー大統領はブチャ虐殺事件後(2022年3月)、「メルケル氏の2008年ブカレストでの加盟反対がこの結果をもたらした」と批判している。