静寂ほど安らぎを与えてくれるものはない、と思われがちだが、静かすぎるのも考えものだ。ある海軍兵士が、世界一静かな部屋で極限の静けさへ挑戦した―――。

静寂を求めた兵士、極限の静けさへの挑戦

 ミネソタ州ミネアポリスにあるオーフィールド研究所の無響室は、ギネス世界記録に「世界一静かな場所」として認定されている。99.99%の吸音率を誇るこの部屋は、壁に巨大な発泡スチロールの楔が設置され、コンクリートと鋼鉄で遮音されている。外部の音はほぼ完全に遮断され、内部の音も反響しないため、驚くほどの静寂が実現されている。

 今回、この無響室での静寂体験に挑戦したのは、米海軍下士官のニック・ヘア氏だ。

 彼は空母エイブラハム・リンカーンで9か月間勤務していた。数千人の兵士と航空機の離着陸音に囲まれた艦上での生活は、想像を絶する騒音だっただろう。

 そんな環境から、故郷ニューヨーク州北部の森でのハイキングのような静かな日常を取り戻したいと願っていたヘア氏は、日常生活に戻るための訓練として、完全な静寂の中で過ごすことを希望したのだ。まるで真逆の環境に身を置くことで、感覚を取り戻そうとしたかのようだ。

 同行したNBCニュースの記者、ゲイリー・サンダース氏も一緒に無響室に入ったが、耐えきれず5分で出てきてしまった。サンダース氏は「非常に強い圧力がかかっていて、まるで山を登る車の中にいるような感じで、圧力を均等にするために唾を飲み込んだりあくびをしたりしなくてはならない。首に血が流れる音が聞こえてくるのは確かだ」と説明している。静寂すぎる環境は、我々の想像以上に精神に負荷をかけるようだ。