しかも、こういう話はあちこちにあり、最終的にその被害の負担を被る国民の不満が、トリックを企んだ政府ではなく、それを暴いたCDUや、厳格な判決を下したケーニヒ裁判長に向かう可能性は十分にある。また、気候政策は絶対に遂行されなければならないと信じている人たちにとっては、CDUは国益や気候保護を潰す悪者ともなりかねない。ただ、CDUは国民のその気持ちをわかっているのか、いないのか、今なお与党の弱みを突くことに夢中で、他の不正も探し出すと張り切っている。
一方、ショルツ政権としては、とにかくどうにかして緊急にお金を調達し、この破産状態を抜け出さなくてはならない。ただ、できることは限られている。増税はすでに国民にその余裕がなく、支持は取り付けられないだろうし、リントナー財相の「増税なし」の方針にも反する。
手っ取り早いのは、再び何らかの非常事態を宣言し、債務ブレーキを外し、今年と来年のお金を確保することで、そう主張している人はすでに多い。ただ、そのためには、最高裁に違憲と言われないだけの「非常事態」を考え出す必要があり、それが結構難しい。天災は来ないし、疫病もなく、エネルギー危機はウクライナ紛争のせいにするには少々時期が遅すぎる。その上、債務ブレーキの緩和は、これまたリントナー氏の方針に反する。
ちなみに、DIW(ドイツ経済研究所)の長官マルセル・フラッチャー氏の意見はさらに過激で、憲法を改正し、借金ブレーキ自体も取り払い、いつでも自由にお金を調達できるようにすべきという。そうすれば、資金調達にトリックを使う必要もなく、政治の自由裁量権が広がり、未来の投資に繋がる。モノも考えようだ。守れなくなった規則を変えてしまうのは、欧米人の得意技なので、いずれ借金ブレーキが停止、あるいは緩和される可能性は高いような気がする。
ドイツの国益のためにすべきことただ、一番良いのは支出を減らすことだと、私個人としては思っている。「気候とトランスフォーメーション基金」には、CO2削減にも温暖化防止にも役に立たず、国民に多大な負担を強いるだけの施策が山ほどある。これらを一掃するのは、ドイツの国益に資する。必要なのは、国民への丁寧な説明だ。
CDUは政権の奪還を図りたいなら、違憲、違憲とばかり言っておらず、より良い政策を提起すべきだ。気候政策だけでなく、例えば、現在の難民・移民政策には、あまりにも矛盾と無駄が多過ぎる。また、エネルギー価格を下げたいのなら、4月に止めてしまった最後の3基の原発を再稼働する方が、電気代に補助をつけたり、ハーベック経済・気候保護相のいうように風車を10万本に増やしたりするより、ずっと効果が大きい。
現在の政策の多くは、その根がメルケル前政権にあるため、CDUとしては下手に批判すると、それがブーメランのように戻ってくることを恐れているのかもしれないが、ショルツ政権が弱っている今こそ、本質に切り込むチャンスではないか。いずれにせよ、手遅れにならないうちに、現政権の“緑の妄想”を終わらせなければ、ドイツは本当に自滅の道を歩むことになる。
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提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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