ファン・デア・ベレン大統領の組閣要請について、少し説明が要るだろう。オーストリアではドイツと同様、極右政党の政権入りについて、国民ばかりか、メディアの中にも強い抵抗がある。だから、他の政党は自由党、「ドイツのための選択肢」(AfD)との連立を拒否している。ただ、オーストリアの場合、連邦レベルでも州レベルでも自由党が入った連立政権は過去、発足したことがある。2000年の国民党と自由党の連立政権発足の際は、欧州全土でオーストリアの新政権ボイコットが起きた。州レベルではオーストリアでは4州(ニーダーエステライヒ州、オーバーエステライヒ州、ザルツブルク州、フォアアルーベルク州)で国民党と自由党の連立政権が発足している。右傾化が囁かれているだけに、欧州では極右政党の動向に少々過敏となっている。

ファン・デア・ベレン大統領は総選挙後、主要3党の党首を大統領府に招き、会談した。そこで国民党のネハンマー党首(首相)、社民党のバブラー党首は「自由党とは連立を組まない」と表明した。それを受け、大統領は「国民党と社民党が自由党と政権を組む意思がないことが判明した。自由党一党では政権を組閣できない」と説明し、連立政権発足の可能性は国民党と社民党の連立に第3政党を加えた場合のみ安定政権ができると判断、政権組閣を第2党の国民党のネハンマー首相に委ねた経緯がある。

大統領の判断は間違いではないが、総選挙で第1党となった自由党の立場を尊重し、たとえ組閣が難しいとしても自由党のキックル党首に組閣を要請すべきだった。それが民主的選挙を尊重するということになるからだ。その点、「緑の党」出身のファン・デア・ベレン大統領はミスをした。同大統領には極右政党への強い抵抗感があるからだ。

「国民の首相」になると宣言してきた自由党のキックル党首は総選挙で第1党に躍り出たが、政権組閣を拒否され、無念だったはずだ。ただし、自由党がその後も躍進し続けるとすれば、自由党抜きで安定した政権は樹立できなくなる。来年1月にはブルゲンランド州議会選が行われる。キックル党首は同州の自由党党首にノルベルト・ホーファー氏(前第3国民議会議長)を送るなど、着実に手を打ってきている。