重力を利用した吊り下げ点滴が登場したのは20世紀初頭からとされています。
この方法は、輸液バッグを点滴スタンドに吊るし、重力によって生じた圧力で輸液を患者の静脈に投与します。
重力を利用した吊り下げ点滴が登場したことで、輸液の流量の調節や長時間の投与が容易になり、医療現場の効率化や患者への負担軽減が大きく進みました。
そのため非常に画期的な発明ですが、この点滴の方法は、患者の自由度が低く、どうしても移動制限が生じてしまいます。
「ちょっとトイレに行きたい」という時にも、スタンドを押していかなければいけません。
またそのような移動時にスタンドが転倒する事故リスクもあり、輸液バッグが誤って落下した場合には、血液の逆流事故が生じる恐れもあります。
こうした欠点は特に長時間の投与をする場合に問題になります。
吊り下げ点滴は細かい技術改善が続いていますが、100年近く前と基本構造が変わっていないことを考えると、これらの問題を考慮した改善があってもいいかもしれません。
そこで産総研のチョン・カーウィー氏ら研究チームは、重力に頼らない新しい点滴の形を開発することにしました。
大気と真空の差圧を利用した「吊るさない点滴」
「吊るさない点滴」を実現するためには、重力に頼らずに、輸液に圧力を付加しなければいけません。
またその駆動力を電気に頼ってしまうと、災害時における使用が難しくなってしまいます。
また、輸液バッグ内の薬液に安定した圧力として伝達したいと考えました。
安定した投与量の点滴は、患者の治療効果の最大にし、安全を守る上で重要だからです。
そこで研究チームは、真空ピストンシリンダーを駆動力として採用しました。