■グリーンの謎の死
彼のアパートに、無理やりこじ開けられたような形跡はなかった。しかし、確かにグリーンが絞殺された方法は、自殺と考えるにはあまりに特殊だった。グリーンはまた、本格的なうつ病や精神的健康の問題を抱えたことは一度もなく、何より文筆家でもある彼が、遺書を何らかの形で残さないのも奇妙に思えた。
グリーンの亡くなったベッドの傍らには、ほとんど空のジンの瓶が転がっていたが、彼は夕食ではいつもワインを飲んでいた。グリーンは有名なワイン愛好家であり、彼のような洗練されたワイン愛好家は、ワインを飲んだ後にジンで締めることはあり得ないという。
グリーンが最後の夜、夕食を共にした彼のボーイフレンドは、夕食後にケンジントンのグリーンのアパートに戻ったと述べ、何も事件の兆候はなかったと話している。
雑誌「The New Yorker」の記事によると、グリーンと共にオークションの中止に尽力していた別の学者、オーエン・ダッドリー・エドワーズは、グリーンが殺されたとは考えられないが、グリーンがオークションを阻む最大の人物だったことは間違いないと話す。しかし、グリーンの親友の多くは、彼は自殺するような性質(たち)ではないと考えていた。
グリーンが問題にしていたアメリカ人は、ジョン・レレンバーグという男性で、彼はホームズに関する多くの本の著者であり、またホームズ研究に関して、グリーンと双璧を成すもう一人の著名な人物だった。当然のことながら、彼はグリーンが彼に言及した理由や、彼のパラノイアの理由について何も知らないと主張した。
ただし、レレンバーグがグリーンが死んだ夜にロンドンにいたことは注目に値するだろう。グリーンが彼に出会い、彼の存在によって極度の精神不安定になった可能性はあるかもしれない。
そして皮肉なことにオークション後、最も重要な文書の多くは結局、大英図書館に収まることが決まった。
結局、検視官はグリーンの死は自殺とも他殺とも結論付けなかった。しかしグリーンの死は、シャーロック・ホームズの物語の1つと奇妙に似ているのだ。
グリーンはこのトリックを利用し、ドイルの遺品が英国から流出するのを阻止し、また彼のライバルに疑いをかけようと仕組んで、自殺をしたのではないかと考える人もいる。もしその推理が当たっていたら、グリーンの一世一代のトリックは見事成功したと言えるだろう。
文=三橋ココ
提供元・TOCANA
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