実際の映像で「お先にどうぞ」を見てみる

こちらが実際に撮影された「お先にどうぞ」のジェスチャーです。

くちばしにはヒナにやる餌が咥えられています。

調査では8組のつがいが巣箱に戻る様子が延べ321回観察されました。

このとき、つがいの片方が単独で巣箱に戻る際には、何か特別な身ぶりをするシジュウカラはいませんでした。

ところが、つがいの2羽が同時に巣箱に戻ってきたときには、どちらかが翼を小刻みにふるわせる行動を取ることがあったのです。

鈴木氏によると、ジェスチャーはオスメス両方で確認されましたが、メスで56回中24回、オスで33回中2回と、その大部分はメスで見られたといいます。

「お先にどうぞ」のジェスチャーを行うと、もう片方が先に巣箱へ入る
「お先にどうぞ」のジェスチャーを行うと、もう片方が先に巣箱へ入る / Credit: 東京大学 – シジュウカラはジェスチャーを使う ―翼をパタパタ「お先にどうぞ」―(2024)

メスを例にとって見ると、「お先にどうぞ」のジェスチャーを行った場合、24回中23回でオスが先に巣箱へ入ることがわかりました。

一方で、ジェスチャーをしなかった場合、33回中32回でメスがそのまま先に巣箱へ入ったのです。

またメスがジェスチャーをしないと、オスが巣箱に入るまでに平均で数分かかったのに対し、ジェスチャーをすると、オスは平均10〜15秒で巣箱に入っていました。

メスがジェスチャーをするとほぼ確実にオスが先に巣箱へ入る、ジェスチャーをしないとメスがそのまま先に入る
メスがジェスチャーをするとほぼ確実にオスが先に巣箱へ入る、ジェスチャーをしないとメスがそのまま先に入る / Credit: 東京大学 – シジュウカラはジェスチャーを使う ―翼をパタパタ「お先にどうぞ」―(2024)

このことからシジュウカラのジェスチャーには、巣箱に入る順番決めの意味だけでなく、つがい相手をスムーズに家に入れる機能もあると考えられます。

そして翼をふるわせるジェスチャーは、つがい相手が巣箱に入ったタイミングで止まりました。

こうしたシジュウカラの一連の動きは、他者(つがい相手)に対して、ある目的のため(巣箱に先に入るよう促す)に用いられ、それを達成すると動きを止めることから、ジェスチャーの定義に当てはまるといいます。

鈴木氏は「鳥の翼が空を飛ぶためだけでなく、ジェスチャーというコミュニケーション機能も持つことがわかった」と話しました。

人間は二本足で立つことができるようになったおかげで両腕が自由になり、ジェスチャーが発達したと考えられています。

他方でシジュウカラも枝に止まっている間、左右の翼は自由です。

これを踏まえて、ジェスチャーはヒトと鳥という遠く離れたグループでそれぞれ独自に進化した可能性があると鈴木氏は指摘しています。

鳥類は脳の小ささに関わらず、非常に賢い生き物です。

シジュウカラの他にも、同様のジェスチャーを使っている鳥類はいるかもしれません。

鈴木氏らは今後、さまざまな動物種を対象に、ジェスチャーとその意味を探る研究が活発化することを期待しています。

鈴木氏による「シジュウカラ語」の詳しい解説はこちらから。

参考文献

シジュウカラはジェスチャーを使う ―翼をパタパタ「お先にどうぞ」―

These birds appear to be signaling ‘after you’

元論文

The ‘after you’ gesture in a bird

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。