筆者が20代の頃のエピソードです
日本のピアノ市場は、ヤマハとカワイで約9割のシェアを占めています。しかし、それ以外にも多くのピアノメーカーがあり、大手メーカーに対抗すべくピアノ組合を設立していました。このピアノ組合の販路開拓を請け負ったことがあります。筆者が20代の頃です。
この販路開拓は簡単なことではありません。想定された販売チャネルはホームセンター、通信販売、音楽大学等での実演販売、百貨店の4経路です。チャネル先の担当者と交渉していくと、案の定、当初想定されたチャネルは全滅となります。価格的な問題と、ピアノの大きさの問題がクリアできないのです。
釈然としない私は、数日頭を空っぽにして、なんとか別の可能性がないものか模索しました。その結果、一つの可能性が浮かび上がります。それはショールーム販売でした。当時、大きなショールームを所有し、ピアノを置くことができて、価格的な問題をクリアできる場所は日本に1カ所しかありませんでした。それが大塚家具です。
早速連絡をしてみたところ、元社長(当時は経営企画室長)とコンタクトが取れ、幸運にもすぐに当時の社長(父親)と面会することができました。
元社長は情熱的でした。ピアノ組合の話を聞くなり、「このデザイン力を活かすなら当社のショールームはベターでしょう」「デザインはヤマハ、カワイに劣るとは思えません」「大手よりもピアノ組合の製品に興味があります」という回答で、とんとん拍子で進みました。
このプロジェクトはマーケティング業界でちょっとした話題になりました。当初の仮説通りに進めていたら実現しなかった事例です。
マーケティングや経営分析では「仮説」が重要だと言われます。ですが、「仮説」という思い込みは自らの視野を狭めです。「仮説」にとらわれることなく柔軟性を持つことが大切であると申し上げておきましょう。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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