さて、トランプ氏が復活するアメリカを想像するとき、世界の指導者は「嫌だな」と思っているでしょう。理由は国家元首といえどもすり寄らない限り、罵声を浴びさせられ、罵られるからです。特に今回戦々恐々としているのは欧州の首脳かもしれません。その場合、欧州はアメリカとの関係を以前ほど密にできなくなるかもしれません。ウクライナ支援も厳しく、ゼレンスキー氏は休戦前でも大統領選を行わざるを得なくなり、その場合、敗北する可能性も出てきます。
笑うのはプーチンでしょう。欧州は失望するかもしれませんが、極めて難しい判断です。ウクライナとロシアの歴史はちょうど370年前、ウクライナがポーランドによる侵攻に対しロシアに救いを求めた1654年のペラヤスラフ協定が歴史的にはきっかけと考えられます。その後、ロシアによるウクライナ併合に対して時々起きる内戦などで一時的にウクライナが声を上げることもありましたが、基本的にはロシアが抑えてきた歴史があります。よって1991年のソ連崩壊によるウクライナの独立もロシアとウクライナの大きな歴史観の中ではごく一時的な事象に過ぎないというプーチン氏の独特の見方があるのでしょう。
またトランプ氏にとってウクライナがどうなろうがアメリカの国政にどれだけ影響するのか、という全く別の視点にあるとみています。もちろん、国家の主権とは何か、という根本的話があるべきですが、トランプ氏とはそういう男なのです。
この延長で考えれば中国と台湾の問題についても大した興味は示さないと思います。朝鮮半島の問題も「朝鮮民族の問題だろう。自分で解決せよ」のはずです。ゆえに在韓国米軍および在日本米軍に対する資金負担を韓国や日本に強いるわけです。では日米安保条約はどうか、といえばもしも日本が危機に陥った時、武器は供与する、だがアメリカが直接関与するかどうかはわからない、これが彼の価値観だとみています。
よってトランプ氏は別の意味での強権アメリカになるのです。過去の約束事とか条約はどうにでもなると思っているのです。その強気の姿勢は抱える裁判をずっと戦い抜いている点において法治国家ですらその解釈にはずいぶん議論の余地があるのだということです。ならば国際条約はもっと緩いわけでいかようにもなると考えられるでしょう。
イスラエルについては唯一興味を示す外交で、イランに対して相当厳しい制裁を科すとみています。ガザ地区の浄化作戦のち、パレスチナに一定の条件をもってガザ地区の統治を委託する作戦で完結させるとみています。その間、イランが水面下で操る武装勢力や原理主義勢力へは厳しい報復とともにイスラムのスンニ派とイスラエルの関係改善を進めるのだろうと思います。
ここで中国なのですが、中国はトランプ氏のアメリカになっても苦しまない、いや、むしろより強くなりやすいとみています。理由は簡単です。トランプ氏の敵は中国だけではないのです。上述のように皆トランプ氏を苦手とするのです。だから、中国とディールしたくなるのです。つまり世界はアメリカ中心に回っているけれど、その歯車が変わる可能性を見ています。言い換えれば強権アメリが復活するとき、アメリカ至上主義は終わり、孤立化するアメリカだけが残る、ということです。
トランプ氏が一番恐れなくていけないのはアメリカに海外から資金が入らなくなる事態が起きた時です。結局今のアメリカは経済で持っています。とやかく言いながらもマグニフィセントセブンに代表される企業群に支えらえています。その成長率が十分ではなくなった時、世界はアメリカ以外の国を探す、そういうことです。あるいはアメリカ国債は誰が買っているのか、そこはアメリカがそれほど強気になれない部分でもあるはずです。
もちろんが日本がリーダーシップをとる考え方もありますが、日本は欧米の様なごり押し的な強さががあるわけではな点で難しいのでしょう。
国家の栄枯盛衰という点からすればアメリカもずいぶん歳を取ったな、というのが私の見方です。若返りをはかるまでしばし休憩なのかもしれません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年3月7日の記事より転載させていただきました。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
【関連記事】
・「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
・大人の発達障害検査をしに行った時の話
・反原発国はオーストリアに続け?
・SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
・強迫的に縁起をかついではいませんか?