アメリカ経済が今の金利状態を維持しながら廻ること自体がおかしいのです。経済面だけを見れば金利引き上げは景気が良すぎるからそのスピードを緩めるために行うのです。ところが今回の金利引き上げは純粋な景気面というよりインフレ面から利上げをしたのです。そのインフレはどこから始まったかといえばコロナ期です。その頃、借金を増やし、国債を発行し、民間にお金をばら撒いたのです。そのばら撒いた借金である国債はアメリカ国内、および中国を除く諸外国で吸収したのです。

国債は国の保証がついた債権ですから、アメリカが倒産することがない限り持ち続ければ為替差損益を別にして実損は発生しません。が、仮に世界にもっと魅力的で安定的な投資先ができたなら、世界のマネーはそちらに投資先を変えるでしょう。そうなるとアメリカ国債は魅力を維持するためにより高利回りの国債を発行する必要があります。それが高金利を維持せざるを得ない理由となり、国内物価はそれに合わせるようにすべてがスライドアップし、インフレになります。

つまり大胆な想像ですが、アメリカのインフレだけが収まらないのはアメリカが巨大な借金国家ゆえに国債価格と市場連動性が失われているのではないか、という気がするのです。もちろん、私はアメリカがトルコやアルゼンチンのようになると思っていません。ただ、仮に代替投資先ができたならばアメリカ国債は輝きをなくすことはあるだろうと思います。

ではその代替投資先はあるのか、であります。現在はとりあえず金(ゴールド)が手っ取り早い手段として各国中央銀行はかなり買い続けています。中期的に見て金は輝きを増すだろうとみています。大暴騰はしないけれど着実な上昇は期待できるし、物価上昇のヘッジになるとみています。なぜ、金なのかといえばそこには政治的中立性があり、安定しておりアメリカで持つ金も日本の金も中国の金も同じ輝きだからです。世界は中立的な投資先こそ安全な代替投資先と考えやすいのでアメリカ色が嫌いな中国や一部の権威主義国家はその資金の振り向け先を変えているのではないかと考えています。

もう一つの金のメリットは金の取引価格がドル建て表示である点です。仮に将来ドルの価値が下がった場合、金の価格はそれに反比例して上昇します。つまり金はドル為替へのヘッジができるのです。これぞ安全資産そのものなのです。

日本の財務省はアメリカ国債を馬鹿の一つ覚えのように買い続けていますが、私はバランス感覚でみると非常にセンスがないと思っています。日本の金の保有率は世界では9位の945トンですが、日本の対外資産のバランス感覚からすれば今の5倍、5000千トン程度持ってもよいと思っています。アメリカが世界一で8100トン、2位のドイツが3300トンです。アメリカが老いてきているのは否定できないし、リスクヘッジはした方がよいと思います。

常識が常識で無くなるとき、それは投資先がアメリカ国債一強だった絵図が変わるときであり、それが起きないとは限らないことは肝に銘じておくべきでしょう。

では今日はこのぐらいで。

編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年6月6日の記事より転載させていただきました。