今週、アメリカ大統領選挙に影響を与える出来事があります。
アメリカのマスコミと有権者が注目していますが、日本ではなかなか報道されないと思いますのでここで紹介します。
その出来事は、リバタリアン党大会とそこでのトランプ元大統領とロバート・ケネディ・ジュニアの登壇です。
米リバタリアン党の党大会は今月(5月)23日から26日にかけて開催されます。リバタリアン党の党大会は基本的にそこまで報道されませんが、今年はかなり注目されています。
今年11月の大統領選に立候補するトランプ元大統領(共和党)とロバート・ケネディ・ジュニア(無所属)が登壇するからです。
ちなみに、リバタリアン党はバイデン大統領も招待しましたが、返事がなかったらしいです。アメリカの自由主義者が愛する起業家そして大統領候補だったヴィヴェック・ラマスワミ、そして自由主義者であるトーマス・マシー共和党下院議員も登壇します。
リバタリアン党は、なぜリバタリアン党員ではない大統領候補を呼んだのか?そしてトランプとケネディ・ジュニアの登壇はどのようなことを示すのかを解説したいと思います。
1. リバタリアン党とは?はじめに、「リバタリアン党」について簡単に紹介します。
リバタリアン党は1971年にノーラン・チャートで有名なデイヴィッド・ノーランによって結成されました。初期には無政府資本主義の創始者として有名なマレー・ロスバードらも参加しました。近代アメリカの代表的な第三政党です。
アメリカの選挙システムでは第三政党がなかなか当選できないにも関わらず、リバタリアン党の候補は州や都市の選挙で当選することがあります。そして、大統領選の一般投票では3位をよく獲得します。
リバタリアン党の大統領候補の選出方法は、共和党や民主党とは異なります。
共和党と民主党の場合、大統領候補は予備選で代議員を獲得することで、各党の大統領指名候補になります。そして、各党の大統領指名候補は一方的に自分の副大統領候補を選ぶことができます。
リバタリアン党の場合、各州のリバタリアン党の選出代議員は、党大会で数人の大統領候補を指名します。そして、指名された候補たちは党大会の討論会で討論します。その後、リバタリアン党の代議員の投票によって大統領指名候補を選出します。副大統領候補も大統領候補と同様の仕組みで指名されます。
ところで、リバタリアン党はどのような立場や思想を持っているのでしょうか。リバタリアン党のホームページから党の思想を代表するような引用を見てみましょう。
“Libertarians strongly oppose any government interference into their personal, family, and business decisions. Essentially, we believe all Americans should be free to live their lives and pursue their interests as they see fit as long as they do no harm to another.” 「リバタリアンは、個人、家族、ビジネスの決定に対する政府の干渉に強く反対します。基本的に、私たちはすべてのアメリカ人が、他者に危害を加えない限り、自分たちの生活を送り、自分たちの利益を追求する自由があると信じています」
リバタリアン党の政策は、個人の自由を擁護し、政府の介入を積極的に反対します。また、経済政策は完全にオーストリア学派の思想に基づいています。
そして、リバタリアン党の中にはいろいろな自由主義者がいます。
Classical liberals(古典的自由主義者)、minarchists(最小限の政府を唱える自由主義者)、anarcho-capitalists(無政府資本主義者)などで構成されています。
2. ロバート・ケネディ・ジュニアとは?リバタリアン党大会に登壇するトランプ元大統領はもちろんのことですが、ロバート・ケネディ・ジュニアも最近日本で話題になりつつあります。
ケネディ・ジュニアは上院議員も務めたロバート・ケネディ元司法長官の息子で、ケネディ元大統領の甥です。
コロナワクチン、コロナ対策、WHOのパンデミック条約の反対運動でアメリカそして日本でコロナ対策に疑問を思った人々の中で人気になりました。
今回、無所属で大統領に立候補し、世論調査ではかなりの支持を得ています。3月と4月の間に公開された世論調査では、ケネディ・ジュニアは平均的に13%の支持率を得ました。アメリカの大統領選を左右するぐらいの人気があると言っても良いでしょう。
3. トランプとケネディ・ジュニアはリバタリアンなのか?!トランプとケネディ・ジュニアはリバタリアンではありませんが、リバタリアンとの共通点もあります。二人は、リバタリアンと同様に、余計な外国への介入に反対、ようは戦争を起こしたくない立場です。
ケネディ・ジュニアは、世界中の政府がコロナ対策を口実にして政府の権力を拡大し、個人の自由を侵害したことを強く反対してきました。
コロナ、ワクチン、マスクなどについてどのように考えていても、自由主義者はパンデミック中の政府の拡大を真剣に懸念すべきです。
ケネディ・ジュニアは赤字支出をよく批判し、均衡予算を掲げます。
そして、インタビューで「インフレは貧困層に対する最も悪質で陰湿な逆進税である」と発言しました。これらの立場は、自由主義者・リバタリアンとの共通点です。
しかし、それ以外の立場はほとんど自由主義とは異なります。例えば、最低賃金法、経済の中央計画、政府の規模の拡大、環境規制、銃規制の強化などに賛成しています。
トランプは自由主義寄りの立場をとることが多いです。例えば、減税、規制緩和、言論の自由などに基本的に賛成しています。他の大統領候補よりもリバタリアンに近いのですが、リバタリアンではありません。リバタリアンと違う政策はたくさんあります。保護主義的な貿易政策、政府支出増加、福祉国家の維持・拡大、銃規制の強化など、より大きな政府を要する立場がたくさんあります。
4. リバタリアン党はなぜトランプ、ケネディ・ジュニア、そしてバイデンを招待したのか?リバタリアン党員ではない大統領候補をリバタリアン党大会に呼ぶのはおかしいと思うかもしれませんが、リバタリアン党はいくつかの理由があると思います。
リバタリアン党党首アンジェラ・マッカードルはいくつかの理由をXで述べています。まず、トランプやケネディ・ジュニアの登壇によって、リバタリアン党大会についての「マスコミ報道がすごく多くなるだろう」と投稿しました。
リバタリアン党員であるリアム・マッコラムはXで、リバタリアン党は、トランプを招待することには戦略的な価値があり、そしてリバタリアンはトランプに不満をぶつけることができると述べました。また、トランプを呼ぶことで、トランプに影響を与えることも不可能ではないです。2期目のトランプ政権が少しでももっと自由主義寄りになることを願っているのでしょう。
もう一つの裏の理由は、リバタリアン党はこのままだと消えていってしまう可能性に直面しています。アメリカ人の自由主義者とリバタリアンは必ずしもリバタリアン党の候補を支持するわけでもないのです。また、リバタリアンの候補者はいつも一般投票で3位を獲得するのに、今年はケネディ・ジュニアに負けそうです。党の重要性を保つことを考慮してトランプ、ケネディ・ジュニア、バイデンを招待したのではないかと思う人もいます。
ちなみに、トランプの登壇を疑問に思っているリバタリアン党員もいます。これに対して、マッカードルは、これはリバタリアン党にトランプを支持させようとする陰謀ではないと断言しました。