残りの紙幅は米国のエネルギー政策を例に挙げる。バイデンは就任直後の大統領令でキーストーンXLのパイプライン工事を止め、シェールオイル・ガス開発業者への新規国有地賃借を禁じた。が、プーチンにその対露弱腰を見透かされ、22年2月24日のウクライナ侵略を許した。米国やEUなど西側諸国は足並みを揃えてロシアを経済制裁し、その一環でロシアからの天然ガス輸入を止めた。

それはシェールオイル・ガスのフラクチャリング採掘法で有数の産油国に伸し上がった米国には痛痒を与えないが、ロシアに依存するEUはたちまち窮地に陥った。西側諸国は、米国が新規のガス田開発を再開し、シェールガスを大増産することに期待した。が、増産はしたバイデン政権だが、22年4月に賃借を解禁した国有地は適地の2割に過ぎず、LNG輸出基地の増設許可も停止し続けている。

トランプがエネルギーコストを半減させるための政策とは、シェエールオイル・ガスの開発規制を緩和し、輸出基地を増やして大増産することに他なるまい。彼は16年11月に大統領に就任するや、公約である石油輸出国を目指してシェールオイル・ガスの開発を推進した。その結果、17年初めに日量890万バレル程だった産油量は20年2月には日量1,300万バレルに拡大した。

20年の天然ガスの純輸出量を国や地域別にみると、ロシア2,272億m3(39.7%)、中東1,243億m3(21.8%)、アフリカ805億m3、米国680億m3、その他718億m3とロシアが圧倒的なシェアを占め、その経済を支えていた。よって、ウクライナ侵攻時に西側がロシアに課した原油や天然ガスの禁輸は、ロシア経済に影響を与えるはずだった。

ところが、対ロシア制裁(=ウクライナ侵略)が始まって2年が経とうとしている現在も、ロシア経済には西側が期待したほどの打撃を与えていない様に見える。巷間では中国とインドがロシアからの原油や天然ガスの輸入を増やしているからだ、との言説が流れるもののその確証が掴めないでいた。

というのも、ロシア当局は22年2月のウクライナ侵攻以降、貿易データを一切発表しなくなったのだ。が、そのロシア貿易統計集の22年年報と23年1Q報を、北海道大学スラブ・ユーラシアセンターが入手していた。ロシア税関はウェブサイトでの貿易データ開示を停止したが、紙の統計集は発行されていて、代理店経由で例年通り入手したと同センター服部教授が述べている。

その統計に拠れば、22年の原油輸出先別の数量と構成比は、中国78,562千t(33%)、インド26,627千t(11%)、その他136,296千t(56%)、合計241,485千t(Q平均60.371千t)だった。また23年1Qの構成比は、インドの急増(600千t⇒17,328千t 16,726t増)により中国40%、インド34%、その他26%まで変化した。但し、総量は51,592千tと前年1Q平均から15%減少した。

西側各国(非友好国)への輸出量は22年1Qに35,535千tだったものが、23年1Qには8.939千tへと4分の1に激減した。主な内訳は、蘭10,470千t⇒1,470千t、独5.810千t⇒0、英633千t⇒0などEU合計30,054千t⇒8,073千t(21,981千t減)、米586千t⇒0、日676千t⇒92千tとなっている。

このロシア原油の輸出国別データを見れば、西側諸国が22年1Qから23年1Qに制裁のために減らした分の76%ほどをインド1国でカバーした計算になる。この分のかなりの部分がインドからEU各国に回っていると推察され、その量は23年1Q以降更に増加していると考えて良い(非同盟の民主主義大国「インド」のことは別の機会に論じたい)。

なぜなら23年12月11日の「ロイター」が次のように報じているからだ。11月の収入が1月の約2.3倍になっている訳だから、23年通年の数量は400百万tを優に越えている可能性がある。

ロシアは石油の輸出先を中国やインドなどに切り替え、いわゆる「影の船団」を駆使して西側の設定した石油輸出価格の上限制度の網の目をくぐり抜けてきた。11月のロシアのエネルギー収入は9,617億ルーブル(約104億ドル)で、1月の4,244億ルーブルよりもずっと多い。

そこでトランプがエネルギー価格を半分にすると演説した件に戻れば、単に消費者に半額で売った日には、シェールオイ・ガスの採掘・精製・販売などの業者はたまったものではない。よって量を増やさねばならず、そしてその増販先は自ずと海外が主ということになり、そのためにはシェール採掘の新規鉱区解禁と輸出基地の増設が必須になるということだ。

バイデンは明らかにこれの逆を行っている。数字で裏付けるとこうして縷々述べねばならないが、多くの者が気付いている様に、バイデンのエネルギー政策はロシアや中国(とインド)を利すだけで、米国(と西側)にとっては害悪なのだ。米国民の過半がトランプ再登場を待望する理由のひとつである。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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