例えは、トランプ氏はポルノ女優との不倫疑惑、口止め料13万ドル(約1950万円)の支払い問題で裁判を抱えている。ビル・クリントン元大統領(在任1993年~2001年1月)のホワイトハウスのインター、モニカ・ルインスキー女史との性的スキャンダル事件を思い出してほしい。この種のスキャンダルは政治家に致命的なダメージを与える。欧州でも米国でも性スキャンダルが表面化した場合、選挙で苦戦を余儀なくされる。

しかし、米国でのトランプ人気は変わらないのだ。トランプ人気を理解する上で興味深い点は、米国のキリスト教福音派関係者の対応だ。約7000万人の信者を抱える福音派はクリントン氏の性スキャンダルの時、「大統領にある者は道徳的、倫理的にもクリーンでなければならない」と批判し、「道徳と大統領職は分けることはできない」と強調してきた。もっともな主張だ。

その福音派は今日、トランプ氏を熱烈に応援している。トランプ氏が中絶に厳格に反対を主張し、イスラエルの米大使館をエルサレムに移転させたことを評価し、「トランプ氏は神が遣わした大統領」と称賛してきた。トランプ氏の不倫問題については、「神はダビデを使われた。ダビデは側近ウリアの妻を愛していた。そこでダビデはウリアを最も激しい戦場に送り、そこで戦死させると、ウリアの妻をめとった。ダビデは明らかに過ちを犯したが、神は間違いを犯す人物を使って巨悪に立ち向かう。トランプ氏も間違いがあるが、神はそのような人物を神の摂理で利用されている」と解釈するのだ。ちなみに、トランプ氏は1月末、支持者にビデオを送り、そこで「私は神が遣わした者だ」と宣言している(独週刊誌シュピーゲル2024年03月09日号)。

要するに、クリントン氏に対しては「道徳と大統領ポストは密接に繋がっている」として、不倫問題を抱えるクリントン氏は大統領には相応しくないと切り捨てたが、トランプ氏の場合、「人間は弱さを抱えている。神はその弱さ持つ人間を敢えて選んで、巨悪との戦いに使う」という論理を展開する。欧州の知識人がその論理を聞いたら、「典型的なダブルスタンダードだ」と一蹴するだろう。

トランプ氏を熱烈に支援する米国の国民は、自分のように弱さをもち、不倫を犯しながらも神から離れられない人間トランプにシンパシーを感じているのではないか。一方、トランプ氏を好きになれない層はエリート層が多く、自分は間違いないという自負心が強いから、トランプ氏の発言に反発が湧いてくるのだろう。

トランプ氏の伝記を読むと、トランプ氏の母親は「あの子は頭が悪いのよ」と口癖に言っていたという。母親から頭が悪いといわれ続けてきたトランプ氏はその後、その汚名を晴らすために努力していった。そんな出世話は米国では受けるが、欧州では「やっぱり、トランプ氏は頭が悪いのだ」と受け取る。多くの欧州人は米国のリベラルなメディアが報じる「トランプはプレイボーイ」「彼は虚言癖がある」といったトランプ評を信じる一方、米国の熱心なトランプ支持者はトランプ氏を救世主、神が遣わした者と受け取っている。欧州人と米国のトランプ支持者の間には乗り越えることが出来ない大きなパーセプションギャップがある。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年3月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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