一つは、当初内閣府地方創生推進事務局が始めた「地方創生」事業の責任主体が、内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局に移ったかのような錯覚をおこすほど、総括文の中に「デジタル」が限りなく多用されたことである。わずか本文11270字の文章で実に32回も使われていた。
「デジタル」化なら、「地方創生」は実現するのかそのうえ「デジタル」化が進めば、「地方創生」は何とかなるといわんばかりの記述が延々と続いていた。
これでは過去10年間の反省にはならないうえに、今後のデジタル戦略がもつ説得力は高まらない。
「必要である」なら、なぜ実行しなかったのかもう一つは、総括文の主語はいくつかあるが、述語の大半が「・・・・・・必要である」ないしは「・・・・・・求められている」で終わる文体が全篇を覆いつくしていた。具体的にいえば、「・・・・・・必要である」が31回使われ、「・・・・・・求められている」は5回を数える。
要するに10年間の総括では、十分できなかった事業展開がたくさんあって、今後の10年に向けて「やる必要がある」という判断になったのであろう。
毎年1兆円の予算でどのような成果が得られたのか内閣官房・まち・ひと・しごと創生本部事務局ホームページによると、「2021年度地方創生の年間予算」は政府全体の施策として実に1兆2356億円にもなっている。内訳は「地方財政計画(まち・ひと・しごと創生事業費)で1兆円を上回る。
しかしそれならば、この10年間当初予定されていた諸事業のうち、「必要である」「求められる」と総括された事業はやらなかったのか? なにしろ毎年1兆円の予算だったのだから。
この文章表現では総括文にはふさわしくない本文に添付されている「参考資料」によれば、そういうことはないらしい。これらは草案を執筆した担当者のクセだと思われる。
残された諸問題「参考資料」の末尾に掲げてあった内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局による全国の1788地方公共団体(47都道府県、1741市区町村)への「地方創生10年の振り返りのための各地方公共団体における地方創生に関する意識意向調査」結果(自由回答)には、順不同の「主な意見」として、
少子高齢化、人口減少、人材確保(働き手)、担い手、後継者不足 女性や若者が魅力を感じるしごとの創出・確保 社会増や社会減という地域差の発生 安心して結婚・妊娠・出産・子育てができる環境づくり 公共施設の老朽化対応 全庁的なデジタル化の導入が進まない 庁内の人手不足(職員不足) 企業誘致後の雇用の確保の難しさ 安全・安心できる医療環境の確保 高齢化に伴うデジタル化推進の難しさ