オーストリアの「自由党」だけではない。欧州の極右政党であるフランスの「国民連合」やイタリアの「同盟」はモスクワと接触し、人脈を構築していることで知られている。モルクワから欧州の極右党に活動資金が流れているという噂もある。

看過できない点は、プーチン大統領は軍をウクライナに侵攻させた時、キーウのネオナチ政権を打倒し、非武装化させることが目的だと主張してきたが、プーチン大統領自身、欧州の極右政治家との繋がりを有していることだ。欧州の政界の結束を破るために、極右政党を利用しているという面は否定できないだろう。

ゼレンスキー大統領は演説の中で、オーストリアの中立主義に言及し、「ロシア軍が昨年2月24日、ウクライナに侵攻して以来、多くのウクライナ国民が犠牲となってきた。ロシア軍は明らかに国際条約に違反している。ウクライナは自国に属していないものを要求しているのではない。わが国に属していたものを取り戻そうとしているだけだ」と述べ、「ソボトカ国会議長を始め、議員の皆さんをウクライナに招待したい。自らの目でロシアがウクライナで何をしてきたかを見てほしい」と訴え、「道徳的に見て、悪なる行動に対して中立であるということはできない」と主張した。

ちなみに、ロシアの前身国家、ソ連はナチス・ドイツ政権に併合されていたオーストリアを解放した国であり、終戦後、米英仏と共に10年間(1945~55年)、オーストリアを分割統治した占領国の1国だ。首都ウィーンはソ連軍が統治したエリアで、市内のインぺリア・ホテルはソ連軍の占領本部だった。シュヴァルツェンベルク広場にはソ連軍戦勝記念碑が建立されている。

オーストリアのシャレンベルク外相(国民党)は、「わが国は軍事的には中立主義を維持するが、政治的には中立ではない」と述べ、モスクワの抗議に反論している。それに対し、「自由党」幹部で第3議会議長のホーファー氏は、「オーストリアは包括的な国防の枠組みの中で中立国の立場を維持すべきだ」と反論している。

「オーストリアの中立主義は宗教だ」という声がある。ウクライナ戦争が勃発した後も、中立主義を見直して北大西洋条約機構(NATO)加盟に踏み切った北欧の中立国スウェーデンやフィンランドとは異なり、オーストリアでは中立主義の見直し論はほとんど聞かれない。ロシア外務省は3月5日、「オーストリアは中立主義を守るべきだ」と厳しい注文を突き付けている。

オーストリアの複数の世論調査をみると、「自民党」がここにきて第1党に躍進してきた。その背後には、急増する移民問題がある。2015年、中東・北アフリカから100万人以上の移民が欧州に殺到した時、「自由党」は移民受け入れ反対、外国人排斥、オーストリア・ファーストを掲げて国民の支持を獲得し、クルツ「国民党」(当時)と連立を組むまでになった。その後、自由党のハインツ・クリスティアン・シュトラーヒェ党首(当時)のスキャンダル(イビザ騒動)でクルツ政権から離脱し下野した。コロナ感染時代にはワクチン接種反対を掲げて政権を批判してきたが、国民の支持は得られなかった。それが移民の流入がここにきて再び増加してきたことを受け、移民反対の姿勢を明確にして国民の支持率を集めてきている。

オーストリアでは来年秋に総選挙を迎えるが、ネハンマー現政権が早期解散に追い込まれ、選挙で「自由党」が第1党に躍進した場合、EUの対ウクライナ支援に大きな影響を及ぼすことが懸念される。なお、国民議会前には親ロシア系活動家たちがゼレンスキー大統領の議会演説に抗議してデモを行った。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年3月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。