例えば商品の製造に使う50億円の機械を買って、これを10年に分けて費用として計上する、といったケースだ。この場合、一気に50億円を費用として計上は出来ない。売上に対応した数字、通常は法律で定められた耐用年数に応じて少しづつ計上する。
すでに書いたとおり費用は売上を得るために使った分しか計上出来ないため、機械を買った時点で50億円の現金が出ていくが、費用としては5億円しか計上出来ない。この5億円が減価償却費だ。
では残り45億円はどこにいってしまうのか。これが資産としてバランスシート(貸借対照表)に計上される。50億で買った機械から消耗した5億円分を差し引いて、45億円の価値がある機械を保有している、ということだ。それが資産と負債の一覧表であるバランスシートに記録される。
そして100億の利益から営業CFを計算するには、現金流出を伴わない費用である減価償却費が売上から差し引かれているため、5億円をプラスする。じゃあ50億の支払い=現金の流出はキャッシュフロー計算書に計上しなくて良いのか?ということになるが、これは次の項目である投資CFに50億が一度に全額計上される。
後払いの売上と費用も同じように計算する。回収していない売上=現金を伴っていない売上は利益から差し引き、まだ払っていない費用は足す。
減価償却費が5億、未回収の売上が10億、未払いの費用が20億、在庫に変化が無し、この場合は 100+5-10+20=115億 これが営業で稼いだ現金、営業CFとなる。
時折、分かりやすい粉飾決算として架空の売上計上が問題になる。これは営業CFを見れば簡単に分かる。売上も利益も増えているのに営業CFは増えていないという状況だ。預金残高まで偽装すれば別だが、未回収の売上(売掛金)が沢山あるとウソをつけば粉飾は簡単に出来る。
もちろん不自然に売掛金が増えれば監査で簡単にバレるが、発覚まで時間がかかればウソの利益を元に株価は上がり、バレた時点で株価は急落する。筆者は決算書を読めない人は株式投資をしない方が良いとアドバイスをするが、これが理由だ。
150億円の損失は利益に足し戻す。ここでやっと話がつながるが、JALが計上する150億円の損失は、さきほどの説明で言えば50億円で買って、まだ45億円分の価値が残っている機械が壊れて動かなくなってしまった、といった状況と同じだ。
この状況では現金の動きが無いためキャッシュフローに影響は無いが、利益を計算する際には計上する。事故が原因のため特別損失だと思っていたが、営業損失として計上すると報じられている。いずれにせよ現金の増減はない。
したがってJALの損失は現金の流出を伴わない費用であるため、利益から営業CFを計算する際に150億円を足す。
機体が損傷したなら代わりの機体を買うのでは?という事になるが、これは投資CFに計上される。例えば300億円の機体を買えば投資CFは300億のマイナスだ。
資産を売却すれば投資CFはプラスになることもあるが、基本的には投資でお金が出ていくため投資CFは通常マイナスになる。
財務キャッシュフローとフリーキャッシュフロー。最後に三つ目の項目が財務CFだ。
最初に説明した通り、営業CFで稼いだお金で投資CFの設備投資をまかなう。お金が余れば借金の返済や株主への配当で財務CFはマイナスとなり、逆にお金が足りなければ借金や株主から資金調達を行ってプラスになる。
財務状況の健全な企業は、大規模な投資や買収を除けば売上で投資をまかなう。つまり営業CFと投資CFを合計するとプラスの数字になる。この数字をフリーキャッシュフローと呼ぶ。
このフリーキャッシュフローがプラスでないと配当が払えず借金の返済も出来ないため、フリーキャッシュフローは極めて重要な数字となる。
ベンチャー企業が集客を優先してあえて赤字を出している段階や、利益を後回しにして商品開発をしている場合など、それが意図したものであればフリーキャッシュフローがマイナスでも問題は無いが、フリーキャッシュフローが常にマイナスの企業、常にお金を貸してくれ、追加出資してくれと言ってくる企業はどう見えるか。
投資家にとっては金食い虫でリターンをもたらさないダメな投資先、銀行から見ても貸し出しを回収できるか危うい取引先と判断される。当然、就職・転職する人にとっても危なっかしい企業だろう。
前述のリーマンショック時に潰れてしまった企業であれば、過去最高益でも在庫の過剰な増加で営業CFはマイナス、売却するような資産が無ければ投資CFもマイナスでフリーキャッシュフローはマイナス、そしてその穴埋めに財務CFの部分で追加融資や株の発行による資金調達が出来なければ資金はショート、つまり支払いが出来ずに潰れてしまう。
売れない在庫を抱えても借金が増えても、利益の計算とは関係が無いため損益計算書だけを見ても実態は分からない。在庫も借金もバランスシートには記録されるが、支払いに支障をきたすほどなのかは分かりにくい。キャッシュフロー計算書を見ればそういった資金繰りの悪化は一目瞭然なので、一番重要な決算書という説明になる。
キャッシュフロー計算書がややこしい理由。最後は三月末決算の企業なら四月一日の期首の時点で保有する現金に、三つのCFの変化を加えて期末の時点で現金がいくら残っているのか計算する。すると一年間の増減・期首の残高・期末の残高と三つの数字が確定して、キャッシュフロー計算書が完成する。
計算方法を見れば分かるように、営業CFで利益から現金の動きが伴わない数字を取り除き、そこから投資に回して借金の返済や配当にも使えば、手元に残るお金は利益として表示される数字から大きく変化する。利益とキャッシュフローは全く異なる数字であることは納得して頂けたと思う。
キャッシュフロー計算書が難しい理由は三つのCFの関係が把握しにくいからと説明したが、もう一つの理由がPL(損益計算書)とBS(バランスシート)にまたがって計算を行うからだ。
日商簿記の資格では一級の出題範囲になるため正しく学ぼうとすれば難しい項目だが、最低限の仕組みを知っているだけでも読んだり分析したりは十分可能だ。もちろん興味のある人は日商簿記の資格取得をお勧めする。
筆者が日商簿記の資格を発行する商工会議所のインタビューを受けた際には、簿記の知識は一生使える、学生にも会社員にも役に立つ資格であるとコメントをした。これは決して大袈裟ではなく、FPとしてアドバイスをする際にも簿記の知識はフル活用している。
文中で触れたように経理ではなくても投資や就職・転職で決算書を読めないとそれだけで危険な状況に転落する可能性がある。
今回は特に難解なイメージを持たれるキャッシュフロー計算書を説明してみた。参考にしていただければと思う。
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中嶋 よしふみ FP シェアーズカフェ・オンライン編集長 保険を売らず有料相談を提供するFP。共働きの夫婦向けに住宅を中心として保険・投資・家計・年金までトータルでプライベートレッスンを提供中。「損得よりリスクと資金繰り」がモットー。東洋経済・プレジデント・ITmediaビジネスオンライン・日経DUAL等多数のメディアで連載、執筆。新聞/雑誌/テレビ/ラジオ等に出演、取材協力多数。士業・専門家が集うウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインの編集長、ビジネスライティング勉強会の講師を務める。著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年1月30日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。
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