1月2日、羽田空港でJALの機体が能登地震の救援に向かう海上保安庁の輸送機と接触する事故が発生した。非常に痛ましい事故だが、これをJALの立場から、経営目線で見るとどうなるか。

事故による損傷でJALの損失は150億と報じられている。しかしJALは150億円の現金を失ったわけではない。

JALは150億の現金ではなく150億の「機体」を失ったことになるが、現金が減った訳ではないのに損失として計算されるとはどういう仕組みなのか。これは利益と現金の違い、利益とキャッシュフローの違いだ。

企業は「利益」に加えて「資産」、そして「キャッシュフロー」と三つの計算を行う。それに合わせて決算書も三種類ある。この中で一番分かりにくいものがキャッシュフロー計算書だ。そして同時に最も重要な決算書でもある。

元旦に発生した地震では多数の企業に被害が発生し、建物や工場、車両などの損傷で「現金は減っていないけど損をしている企業」が多数ある。

そこでJALの事故を参考に、150億の損失はどのように考えれば良いのか、利益とキャッシュフローの違いに着目しながら考えてみたい。

JAL(日本航空) HPより

利益と現金のズレとは?

キャッシュフロー計算書は文字通り「現金の流れ」を表す決算書の一つだ。

利益とキャッシュフローは混同されがちで、似たようなモノと考えている人も多いが、実際は企業の全く異なる側面を表している。

企業に100億円の利益が発生したとき、それは100億円の現金の増加を意味しない。利益は「売上から費用を差し引いた額」として計算するが、売上は発生したけどまだお金を受け取っていない、費用は発生したけどまだお金を払っていない、そういった状況は珍しくないからだ。

より身近な表現を使うなら後払い、つまりツケで売った、あるいはツケで費用を払う約束をした、それによって利益の計算と現金の流れにはズレが生じる。個人でもクレジットカードならば購入と支払いのタイミングはズレる。

なぜ受け取っていないお金を「売上」として計上するのか? なぜ払っていないお金を「費用」として計上するのか?

これは企業会計で「発生主義」といって、売上や費用が発生することと、お金を受け取ったり払ったりすることを分けて考えるからだ。

利益とキャッシュフローのズレが生じる理由を一言で説明するなら「売上や費用は発生のタイミングと受け取り・支払いのタイミングが違う(場合もある)から」ということになる。

面倒くせー!と感じた人は多いと思うが、利益とキャッシュフローのズレを認識することは企業を分析する際に極めて重要だ。利益だけを見ていると実は手元のお金が極端に減っていて支払いが出来ずに倒産、ということも起こりうる。

キャッシュフローは「実態」を正確に表す。

リーマンショック発生時、前年に過去最高益を出したにも関わらず手元資金が尽きて倒産してしまい、多数の学生を内定切りした企業があった。内定切りの時点ではまだ倒産しておらず、筆者が目にしたニュースでは、お願いだから入社させてほしいとカメラの前で泣きながら訴える学生の姿が流れていた。

一体何が起きたのかと思ってその会社の決算書を見ると、過去最高益をたたき出す一方で手元の現金は激減、そして過剰な仕入れが原因で多額の借金を抱えていた。こりゃすぐにでも潰れるに違いない、学生がキャッシュフロー計算書を読めないのは仕方ないにしても早く他の企業を探せとアドバイスをする人は居ないのか?と呆れてしまった。

内定切りが公表されたのは10月頃、そして2月には経営破綻と、結局その会社は入社式を迎える前に潰れてしまった。潰れる寸前だから内定切りをするんだよと誰か教えてあげる人はいなかったのか?ということになるが、これは利益よりもキャッシュフローの方が実態を表していた事例だ。

そんな話がJALの150億円の機体損傷と何が関係あるのか?と突っ込まれそうだが、発生主義に関わる話だ。

株式投資をやっている人にはお馴染みの、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)といった指標がある。これは株価が利益や純資産の何倍か?を示す指標で、低ければ株価は割安、高ければ株価が割高と判断する。

そしてこれらの指標より有効とされるのが、PCFR(株価キャッシュフロー倍率)だ。利益や資産よりキャッシュフローに対して株価が何倍か?という指標の方が株価との相関が強いということだ。これもキャッシュフロー、現金の流れが企業の実態を正確に表している証拠とも言える。

三つのキャッシュフロー。

トヨタ自動車のキャッシュフロー計算書。

発生主義はキャッシュフロー(以下CF)の仕組みと密接に関わっている。キャッシュフロー計算書は三つの項目に分かれる。営業CF、投資CF、財務CFの三つだ。

三つの項目、それぞれの内容と関係を説明すると以下のようになる。

「営業」で稼いだ現金を、店舗や工場など設備へ「投資」して、残ったお金で借金の返済を行って配当を出す、その逆に資金が足りない場合は借金や株の発行で資金を調達するなど「財務」で調整する。

営業で稼いだ現金は利益と重なる部分も多いため、営業CFは利益から計算する(後ほど説明)。

設備投資は工場や建物、土地、株などへの支払いを指す。一見すると営業CFに含まれそうな項目に見えるが、営業CFと投資CFは分けて計算をする。

財務で調整は、現金が足りなければ借金をする、あるいは株主から調達する。現金が余っていれば借金を返済する、あるいは株主に配当を支払う。

キャッシュフロー計算書が分かりにくい、難しいと思われてしまう原因はこの三つのCFの関係が分かりにくいからだ。逆に言えば三つの関係を把握すれば簡単に理解出来る。

営業キャッシュフローは利益から計算する。

売上-費用=利益

利益の計算式は極めて単純だ(厳密には税引き後当期純利益)。100億の利益は100億の現金増加を意味しない、その理由は支払いや受け取りのタイミングにズレが生じるからと説明した。

つまり利益の計算に使う売上と費用には「現金の動きを伴わない数字」が含まれている。そうであれば営業CF=ビジネスで稼いだ現金を知るには、利益から現金の動きを伴わない数字を取り除けば良いだけ、ということだ。

利益に含まれる現金を伴わない数字は多数あるが、代表的なものは以下の4つだ。

・減価償却
・後払いの売上(売掛金・受取手形)
・在庫の増減(棚卸資産)
・後払いの支払(買掛金・支払手形)

100億円の利益は以下の数字から計算したと仮定する。

売上150億
費用50億
利益100億

100億円の利益は説明するまでもないが、50億の費用のうち、減価償却費(げんかしょうきゃくひ)が5億円だったとする。減価償却は過去に購入した設備を分割して費用として計上する事を指す。

なぜそんな面倒なことをするのか?