【シナリオ③】同数の選挙人獲得

Pro-Union(親-労働組合)を掲げるバイデン大統領にとって、UAWの本拠地であるMI州で敗退するのは絶対に避けたいはずだ。なので、MI州だけは絶対に落とさないようにするためにテコ入れをする可能性があるし、実際注力している。そうなると、選挙人は同数になる可能性がある。

同数になった場合は、2024年11月に勝利した連邦下院議員が2025年1月初旬に新大統領選出を決める。合衆国憲法修正第12条により、この場合の投票先は州ごとの下院議員団がそれぞれ決めると定められている。

先述した通り、NE州は一般投票での得票数に比例する形で選挙人票を与えるという方法を取り入れている。仮にMI州をバイデン大統領が獲得できた上で、NE州で1名を獲得できたら、たった1名差でバイデン大統領が勝利する可能性はある。2016年・2018年はNE州5名がすべて共和党、2008年、2020年は1名が民主党になった。ME州も比例だが、上記に示したパターンになるだろう。

トランプ氏がリードしている背景

スウィング州で何が起きているかに注目することで、トランプ氏がリードしている背景を探ろうと思う。 バイデン大統領が2020年総選挙で勝利したのに、現在は負けているスウィング州の中から、最新世論調査として公開されているMI州とGA州から分析した。

本当は2020年時の同様の調査機関による世論調査と比較したかったが、データ入手が難しかった。そのため、現在も公開されている2020年総選挙の出口調査(州別)とPew reserchセンターが実施した2020年総選挙に投票した全米有権者への大規模調査※1を用いて比較しました。

① 無党派層はトランプ氏を支持する人が多い

「無党派層が選挙を左右する」とよく言われるのは、無党派層が最も多くなっているからだ。Gallup※2が継続して公表している調査によると、無党派層は40%を超えて最も多い勢力なのだ。2020年総選挙ではバイデン氏が勝てたMI州もGA州も、トランプ氏は無党派層から支持を集めてトランプがわずかにリードしている。調査によっては、「Undecided」が5~20%前後いるので、今後、彼らがどう動くかで変わるが。

なお、2020年総選挙の出口調査では以下の結果だったので今回は逆転している。

GA州無党派層 :バイデン53% トランプ 44% MI州無党派層 :バイデン51%  トランプ 45%

Pew Reserchが実施した全米レベルの調査でもほぼ同じような結果(バイデン52%  トランプ43%)となっている。

MI州有権者に対しての世論調査(2024年2-3月)

GA州有権者に対しての世論調査(2024年3月)

② バイデン大統領はアフリカ系アメリカ人からの支持が下落

バイデン大統領の支持率が落ちている一つの要因としてよく指摘されているのは、アフリカ系アメリカ人からの支持が下落していることだ。

スウィング州の中で、アフリカ系アメリカ人の人口比率が高い州はGA州31%・NC州22%・MI州14%・PA州12%となる。

ヒラリー・クリントン氏、バイデン大統領は黒人からの支持が9割を獲得してきた※1。それに対して2月~3月の直近の調査ではMI州では68%、GA州では70~81%となっている。実際、2020年出口調査でもMI州は92%、GA州では88%がバイデン大統領に投票していた。

トランプ氏は2020年からアフリカ系アメリカ人の票を獲得するため “Black Voices for Trump※3” などのキャンペーンをいくつか展開していたが、結果は芳しくなかった。

しかし、ここへきてやっと20%を超える支持もでてきた。もちろんこれは、共和党が議員リクルーティングで白人以外の候補者を増やしてきたことや、共和党を支持するCandace Owensといったインフルエンサーの貢献もあるだろう。

決してトランプ氏だから人気があるというわけではないが、2016年選挙から8年がかりでやっとここまで支持がでてきたといったところだろう。

③ 女性からの支持

2022年夏に最高裁がRoe v. Wadeを覆したことで、各州は州法で中絶を制限できるようになった。それ以降、民主党は「女性のリプロダクティブ・ライツを支持する。女性の権利を支持する」と強く打ち出してきたことで、大統領支持率が低い中でも中間選挙で危惧したよりは議席を奪われなかった。2024年も引き続き女性の中絶する権利を強く打ち出していて、先日のバイデン大統領の一般教書演説でも強調されたことの一つだ。 Roe v. Wadeを復活させると最高裁判事達の前で宣言していた。

ところが、女性からの支持が高まっているかというとそうでもない。

なお、2020年総選挙の出口調査での女性票は以下の結果で、2024年と大きな変化は見受けられない。

GA州無党派層 :バイデン54% トランプ 45% MI州無党派層 :バイデン57%  トランプ 44%

Pew Reserchが実施した全米レベルの調査でも同じような結果だ。

バイデン55%  トランプ 44%

ちなみに、 MI州の有権者を対象にしたQuinnipiac University世論調査※4では、最も緊急であると思われる政策課題として中絶を選択した人は無党派層でたった4%、女性でも9%と明らかに優先順位が低い。というのも、接戦州のMI州・PA州・WI州なんかは既に中絶の権利が確保されているのでもう州で権利があるから優先課題ではないということなのかもしれない。