以上、外電から14日午前までのイスラエルとイラン間の戦闘状況を整理した。イランが報復攻撃を継続するのか、イスラエル側がイラン本土への報復攻撃に乗り出すのか現時点では不明だが、一つ懸念事項がある。イスラエルがイランの核関連施設の攻撃に乗り出すのではないかということだ。
イランは核開発を継続し、核兵器製造用の濃縮ウラン製造を進めている。国際原子力機関(IAEA)の最新報告書によれば、イランは核兵器用濃縮ウランを増産している。IAEAとイラン間の核合意はほぼ失効している。すなわち、イランは近い将来、核兵器を製造し、世界で10番目の核兵器保有国に入るのはもはや時間の問題と見られている。
イスラエルはイランの核開発を警戒してきたから、イランが核兵器を製造するのを黙認しないだろう。核交渉ではイランの核計画をストップできないことは明らかになった。イスラエルは過去、イラン核計画の中心的人物、核物理学者モフセン・ファクリザデ氏など核開発に従事していた核物理学者を次々と暗殺する一方、核関連施設へのサイバー攻撃などを行ってきたが、十分ではなかった。そこで考えられるシナリオは、イラン中部ナタンツ、フォルドウなどの核濃縮ウラン施設やイスファハンの核施設を攻撃することだ。イスラエルは2007年9月、シリア北東部の核関連施設(ダイール・アルゾル施設)を爆破したことがある(「イラン核物理学者暗殺事件」の背景」2020年11月29日参考)。
イスラエルは絶好のチャンスを得た。イランがイスラエル本土に向けて軍事攻撃を行ったことから、イスラエル側は自衛権の行使という理由でイランの核関連施設に軍事攻撃ができるからだ。放射能が外部に漏れる危険性は排除できないが、イランの核開発をストップできる機会だ。一方、イラン側はこれまで核兵器を製造する考えはないと世界に向かって表明してきた。それだけに、イスラエル側のイラン核関連施設への攻撃の被害状況を公表しにくいだろう。
イランの報復攻撃「真の約束」は国民や同盟国に向かって表明してきただけに必ず実行しなければならなかったが、イスラエルとの正面衝突は避けたいというのが本音だろう。換言すれば、イランはイスラエルの戦略にまんまと嵌ってしまったわけだ。
イスラエル側は在シリアのイラン大使館内でイスラム革命部隊の幹部たちがガザ攻撃について作戦を練っていたことをキャッチし、そこで空爆した。イスラエル側にとってイラン大使館破壊は自衛権の行使ということになる。そしてイラン側が今回、自国大使館への攻撃に激怒し、本土からイスラエルへ攻撃するだろうと読んでいたのではないか。バイデン米政権もイスラエル側の意図を知っているはずだ。米国にとってもイランの核開発をストップすることは大きな課題だ。
イスラエル側の計算通りに事が進むか、予想外の出来事が起きて、中東全域に戦争が拡散するかもしれない。世界は大きな分岐点に対峙している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年4月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
【関連記事】
・「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
・大人の発達障害検査をしに行った時の話
・反原発国はオーストリアに続け?
・SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
・強迫的に縁起をかついではいませんか?