同じ上院の共和党穏健派スーザン・コリンズ議員も有罪評決の直後に「トランプ氏を起訴した地方検事のアルビン・ブラッグ氏はこの案件の捜査前から『トランプを倒す』と宣言することで、司法制度と選挙制度とを区分すべき境界線を越えていたことがこの評決でさらに明確になった」という声明を発表した。評決自体を認めないというトランプ氏支持の言明だった。コリンズ議員も上院では共和党とはいえ、伝統的な穏健派として政策面ではトランプ氏と意見を異にすることも少なくなかった。

2016年の大統領選では共和党の指名をトランプ氏と争ったマルコ・ルビオ上院議員もこの評決を「アメリカにとって醜い汚辱であり、私の両親の出身地キューバの共産主義独裁政権の裁判よりひどい」と非難した。

さらに注目されたのは共和党員ながら議会でのトランプ大統領の弾劾に賛成し、反トランプの立場を明確にしたミット・ロムニー上院議員までがトランプ氏支持を表明したことだった。ロムニー議員は今回の評決について「普通の有権者はこの裁判の不公正な実態を知っているから有罪評決がトランプ氏への支持を減らすことはない」と明言し、裁判自体への批判を鮮明にしたのだった。

上院でのこうした共和党の動きはトランプ氏支持という旗印の下に、11月5日の大統領選と同時に実施される上院議員選挙でも共和党が議席を増す展望をも示唆している。いまでも上院での民主、共和両党の議席差はわずか1議席だから、そうなると共和党が上院で多数を制する可能性も出てくるわけだ。

一方、いまの議会の下院では多数派を占める共和党のマイク・ジョンソン議長が今回の評決直後に改めて「この裁判自体が民主党側の司法制度の政治武器化によるトランプ氏攻撃だ」と言明した。下院では上院よりもトランプ氏全面支持という議員が圧倒的に多いから同議長の言明は下院共和党の総意とみなしてもまちがいではない。

議会以外でも共和党有力者たちの今回の評決非難は明確だった。まず注視されたのはトランプ氏の大統領時代の副大統領だったマイク・ペンス氏の言明だった。

ペンス氏は2020年の大統領選挙結果を不正と断じたトランプ氏の主張に正面から反対し、その後、トランプ氏とは冷たい関係にあった。だがペンス前副大統領は今回の評決に対して「トランプ氏、そしてさらに共和党への政治的動機による攻撃であり、国家にとり非道で有害だ」という厳しい見解をアメリカのメディアに語ったのである。

今回の2024年の共和党側大統領選予備選でトランプ氏に最後まで挑戦したニッキー・ヘイリー元国連大使もすでにトランプ氏支持を明確にした。この評決の出る直前の支持表明だったが、トランプ氏に対する起訴や評決の実態をよく知ったうえでの立場の宣言だった。

こうみてくると、トランプ陣営にとっては同じ共和党内部にあった微妙な政策の違いや立場のズレなどが今回の有罪評決への激しい反発という共通項により、一気に解消して、かつてない団結や連帯を強める結果になったといえるのである。

古森 義久(Komori Yoshihisa) 1963年、慶應義塾大学卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。著書に『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす』『米中激突と日本の針路』ほか多数。

編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2024年6月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。