焼肉チェーン「牛角」で全90品・90分の食べ放題コース(税込3938円)を事前に予約して利用したあるX(旧Twitter)ユーザが、多くの肉やサラダなどのサイドメニューが品切れで、特に牛肉は約10種類ほどあるメニューのうち3種類しか注文できなかったとポストし、さまざまな声が寄せられている。牛角といえば今月、女性限定の半額キャンペーンを開始し、議論を呼んでいるが、なぜ客の来店を促進する施策であるはずの食べ放題コースで、逆に客からの信頼を損ないかねない事態が起きているのか。業界関係者の見解を見解を交えて追ってみたい。

 国内で500店舗以上を展開する牛角は店舗数ベースでは焼肉チェーン業界1位であり、約300店舗を展開する2位の「焼肉きんぐ」を大きく引き離す。ちなみに牛角を運営するレインズインターナショナル(コロワイドグループ)の2024年3月期の売上高は997億円で、この数字には同社が運営する「温野菜」「土間土間」「手作り居酒屋 甘太郎」などのものも含まれる。「焼肉きんぐ」を運営する物語コーポレーションの24年6月期の売上高は1072億円であり、この数字には「丸源ラーメン」「寿司・しゃぶしゃぶ ゆず庵」なども含まれる。

「焼肉きんぐ」と牛角に共通しているのが、焼肉以外のメニューも豊富に取り揃えた割安な食べ放題コースだ。「焼肉きんぐ」の一番人気コースである「きんぐコース」は100分食べ放題、小学生は半額、幼児は無料で3498円。「焼肉きんぐ 五大名物」の「花咲上ロース〜ガリバタ醤油〜」「壺漬けドラゴンハラミ」「きんぐカルビ」「炙りすき焼カルビ」「たれ焼しゃぶ」などのほか、「ひとくち冷麺」「石焼ビビンバ」「熱々!石焼ガリバタライス」「とろ~りチーズの石焼キーマカレー」、各種スイーツや子ども向けメニューなどのサイドメニューも充実している。

 一方、「牛角」の「牛角コース」は90品が90分食べ放題で3938円。名物の「熟成王様カルビ」「熟成上ロースステーキ」「ねぎ塩豚カルビ」に加え、「蜜おさつバター」「たっぷりお野菜のミニビビンバ」「ねぎ塩ラーメン」「牛角アイス」などもそろっている。

「両者のメニューを比較すると一目瞭然だが、『焼肉きんぐ』はサイドメニューに非常に力を入れており、『ひとくち冷麺』『熱々!石焼ガリバタライス』『旨辛カルビクッパ』やバラエティーに富むスイーツメニューなど、サイドメニューにも人気メニューを持っている。なので『焼肉きんぐ』のほうがお得感もあり、子どもがいるファミリー客やグループ客から選ばれやすい面があるでしょう」(外食チェーン関係者)

考えられる原因

 そんな「牛角」で事前に「牛角コース」を予約して店舗を訪問したところ、冒頭のような経験をしたというX上のポストが話題を呼んでいる。焼肉メニューでは名物の「熟成厚切りカルビ」「熟成王様カルビ」のほか、牛肉のハラミ、赤身、ロース、ホルモン、レバーが軒並み品切れ。サラダ類やナムル類も品切れだったとして、以下のように綴っている。

<90品の牛角コース頼んだのに品切ればかりで注文できた牛肉は普通のカルビだけ なんとサラダも品切れ…当方、男性なので割引は関係なくこれで通常価格の3983円…酷すぎません?予約限定にしてなんでこんなことになるの?>

 外食チェーン関係者はいう。

「飲食店の価格に対する材料比率の目安は3割なので、約4000円の『牛角コース』だと材料費は約1200円ほどとなります。スーパーで一人当たりこの金額分の肉を買って自宅で食べれば、かなりお腹いっぱいになれますが、肉は種類や部位によって単価が高いものから安いものまであり、店側はさまざまな部位を組み合わせて提供することで利益が出るようにコントロールします。焼肉店では日々、食べ放題で注文が入る各メニューの比率は概ね一定なので、それを見越して仕入れをしており、特に大手チェーンの場合は見込みと実際の注文数が大きく乖離するということは少ないです。今回のようなケースは非常にレアですが、店側は売れ残りが生じるとその分、損失を被ることになるので、できるだけ、その日に注文が入るだろうと想定される量とぴたりと合う量の仕入れを行います。特に生鮮食品は保存がきかないため、そこは非常にシビアに見ています。

 今回の事例の原因としては、現在はスーパー店頭でも牛肉価格が高騰して食べるハードルが高くなっているため、食べ放題ということで“ここぞ”とばかりに牛肉を注文する人が多かったといったことも考えられます。もしくは、たまたまこの日は若者の男性グループ客など食べる量が多めの客が複数入り、早い時間に肉がはけてしまったという可能性も考えられます。

 理想をいえば店側は、この客の来店前のできるだけ早いタイミングで、品切れが多数発生しそうだという旨をお客に連絡してお詫びし、キャンセルをお願いするべきだったといえますが、『牛角』のような安さがウリの店舗は営業時間内は従業員は多忙を極めるため、そこまで意識が回りにくいのが実情でしょう」