この6項目を用いて再定義しますと、次のようになります。

事象1 A1、(A4)、A5を満たす事象(A4は必須ではない) 事象2 A1、A4、A5を満たし、更にA2、A3、A6のうち最低一つを満たす事象

この定義により各事象の性質が更に明確になりました。

当然、事象1の方が幅広く認定されることになります。 疑いがあり因果関係が否定できなければ、積極的に認定されることになります。 ここで最初の話に戻ります。

なぜ米国FDAは、2011年に因果関係があると認定する対象を、事象1より事象2に変更したのか?

「事象1の収集データは、あまりにも多くのノイズを含んでおり、シグナルを検出する力を損なうため」とFDAは説明しています。つまり、事象1を収集したデータは、ノイズを多く含んでいるため、ワクチン安全性を検証するためのデータには適さないということです。何故ならば、厳密な因果関係を必要としないため偶発的に生じた有害事象も多数含んでしまうからです。

この事象の区分は、厚労省の審議会に次のように当てはめることができます。

事象1を対象. 疾病・障害認定審査会 事象2を対象. 副反応検討部会

事象1を対象とするとノイズを多く含むことになるためワクチン安全性を検証するためのデータには適していないが、「疑われる事例は厳密な因果関係が判明していなくてもできるだけ救済する」という 救済制度の主旨には適うことになります。労災保険の対象も事象1です。医療従事者の副反応は労災保険給付の対象となることを厚労省は公式に認めています。

ここで重要なことは、事象1の認定数がいくら増加しようと、事象2の認定には何の影響もないという点です。具体的に言えば、救済認定数がいくら増加しようと、α評価認定には影響しないということです。

非常に多くの事例が救済認定されているから、薬害であることが明白になったとの主張をネットでしばしば目にします。この認識は間違っていると私は考えます。国が因果関係があると認定しているのはα評価事例のみです。薬害と主張するためにはα評価事例の増加が必要なのです。

救済認定という観点からは、ノイズ(偶発的死亡者)を含んだとしても大した問題はないですが、科学的認定(α評価認定)という観点からは可能な限りノイズを除去することが大切だと私は考えます。

現時点で問題なのは日本においての疫学的研究や免疫組織化学的研究が不十分という点です。また、心筋炎では疫学的エビデンスが提示されているにも拘わらず、α評価認定例が1例のみと不自然に少ない点も追究すべき問題です。救済認定事例の分析は私自身も行っておりますが、私が注視しているのは、認定数というよりは認定基準や認定の公平性です。

審議会の目的や性質を踏まえた上で議論することが大切です。そうしなければ、厚生労働大臣に「重大な懸念は認められない」と軽くいなされて、議論が空転するだけです。

なお、FDAの方針はすべての国の賛同を得ているわけではないようです。そのため、因果関係評価の現場では若干の混乱が生じているようです。

最後に、α評価を、CertAin、ProbAble/Likely、Possibleの3分類に変更するべきであるという主張についても考えてみます。

この3分類は、WHOが提唱する6分類に由来します。重要なことは、何のために分類を変更するのかという視点です。α評価認定数が少なすぎるから変更するというのであれば、私は賛同できません。ワクチン安全性を検証するためのデータとしてはどのような分類が必要か、またノイズをどこまで許容するのかという点が重要になってくると、私は考えます。

具体的に言えば、ProbAble/LikelyやPossibleの事例を認定することにより、ワクチン安全性を検証するためのデータとしてより適切なものになるのかどうか、また疫学的エビデンスがない事例を認定するべきかどうかを論点とするべきです。