自由党が第1党になるのは確実視されているとしても、政権を構成できる過半数を得ることは出来ないから、どうしても連立パートナーが必要となるが、現時点ではどの政党も自由党との連立を拒んでいる。
1999年の総選挙で第2党に躍進した自由党が第3党の国民党と連立を組み、首相ポストを国民党のシュッセル党首に譲ることで連立政権を発足したことがある。その時、欧州諸国ではオーストリアで極右政党が政権に入ったとしてオーストリア新政権への激しいバッシングが行われたことはまだ記憶に新しい。
キックル党首が3党に後退した国民党に声をかけて同じようなオファーを国民党に提示するならば、自由党・国民党の連立政権の発足も十分あり得る。政策的に見れば、自由党と国民党は移民政策では似ている。ただし、自由党が反欧州連合(EU)路線を維持している限り、親EU路線の国民党との連立が難しくなることが予想される。
社民党はバブラー新党首を迎えて最初の選挙戦となる。新党首は若い時代、マルクス主義者だったことを吐露するほど、思想的には社民党内でも左派系だ。党内を如何に結束して選挙戦に臨むことができるかがポイントだ。
次期総選挙で興味深い点は共産党が連邦議会で終戦後初の議席獲得を目指している。グラーツ市議会、ザルツブルク州議会選で共産党は大躍進し、市長ポストを獲得し、州議会でも議席を獲得するなど、選挙の台風の目となってきたが、連邦議会選で議席獲得に必要な5%の得票率を獲得するのは容易ではない。オーストリア国民は冷戦時代、ソ連・東欧共産党政権が如何に非人道的な政権であったかを目撃してきているだけに、共産党への不信感は強いからだ(「州議会選で『極右』と『極左』が躍進」2023年4月25日参考)。
なお、オーストリアではリベラルな政党は躍進できないといわれてきたが、ネオスが投票率を二桁台に躍進させるならば、国民党と社民党、それにネオスの3党連立政権というシナリオも生まれくる。
オーストリアは小国だが、EUの唯一の中立国となった同国の総選挙の結果は欧州全土に少なからず影響を与えるだけに、その動向が注視されるわけだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年1月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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