2024年は世界的に重要な選挙が実施される年だ。3月のロシア大統領選、11月の米大統領など大国のトップを選出する選挙が実施される。今年は米ロの大国だけではない。アルプスの小国オーストリアも選挙の年だ。選挙日程はまだ正式には決定していないが、現政権の任期5年の満期を迎える9月か10月には選挙(定数183議席)が行われる予定だ。

不法難民の即送還を訴える自由党のキャンペーン「オーストリア要塞」のオンライン署名活動(自由党公式サイトから)

そこで日本のメディアでは報じられることが少ないオーストリア連邦議会選挙の見通しを紹介する。議員の任期は5年、現政権はネハンマー首相が主導する保守派政党「国民党」と環境保護政党「緑の党」による2党連立政権だ。

選挙の年を迎えて、ネハンマー首相の与党「国民党」もコグラー副首相の「緑の党」も世論調査では苦戦は免れない状況だ。もう少しリアルに表現すれば、「国民党」も「緑の党」も支持率を落とすことが予想される。

一方、野党の極右政党「自由党」の第1党への躍進は現時点では確実と受け取られている。要するに、ネハンマー政権の継続は難しく、自由党を中心とした新しい政権が発足する可能性が出てきたわけだ。

先ず、前回の総選挙(2019年)の結果を振り返る。国民党はまだクルツ首相が党首時代だ。37・5%でトップ、それを追って社会民主党21.2%、自由党16.2%、「緑の党」13.9%、そしてリベラル政党「ネオス」8.1%、共産党0.7%だった。その結果、国民党と「緑の党」の連立が生まれた。

次に、現在の党の支持率の動向を見る。ネハンマー党首の国民党は21%、社民党23%、自由党29%、緑の党9%、ネオス11%、そして共産党3%だ。すなわち、国民的人気があったクルツ党首の辞任後の国民党はその支持率を大きく失っている。それに代わって、自由党は支持率では30%を超えているところもある。このままいけば、キックル党首の自由党が次期総選挙で第1党になることは間違いないわけだ(「極右『自由党』が支持率で独走」2023年9月3日参考)。

もちろん、極右政党の自由党が第1党を獲得して、政権を担うようなことがあれば、欧州全土にも大きな衝撃を投じることは間違ないだろう。欧州の政界ではフランス、イタリア、オランダなどで極右系政党が躍進している。その右傾化を一層、加速することにもなるからだ。

自由党が次期総選挙で複数のメディアの世論調査の結果を裏付ける躍進を遂げるかどうかは、今年6月9日に実施される欧州議会選挙の結果をみれば、より確実な予測ができる。その意味で、各政党は総選挙のテストケースとして6月の欧州議会選に力を入れ出している。

極右自由党の躍進の背景には、不法移民への対策強化を訴える反難民、外国人排斥を掲げるオーストリア・ファースト政策があることは間違いない。イタリア、オランダ、フランスでも極右政党が躍進する理由はその反移民政策にある。

ネハンマー首相は自由党の躍進を警戒する一方、移民政策では自由党と同じように強硬政策を実行して、自由党に流れる有権者を奪い返す政策を実施してきている。国民党の右傾化とメディアでは論じられている。