日本人は日本車に対する絶対的な信頼感があります。修理や下取りも含め、社会循環が確立しています。その上、クラウンやレクサスはOKですが、ベンツとかBMWだと「出る杭」と思われがちだし、中国や韓国のクルマだと「えー、そこまでは落としたくない」というメンタルバリアがあるかと思います。何故かといえばクルマは見せるもの、つまり社会ステータスや見栄という要素も強いのです。だからスマホのように皆さんと同じアップルが欲しいという発想にはなりにくいのです。家の白物家電が中国製でも「人に見せるわけではないからいいか」といった理由は成り立たないのです。
アメリカに於いてクルマは実用第一主義とバイアメリカン主義です。もちろん、こだわる人もいますが、テスラがアメリカで売れたのはアメリカ人のハートをくすぐったと言ってもよいのではないでしょうか?しかし、日本でかつてアメ車が爆売れしたことはほぼないのです。日本人が持つアメ車に対する信頼度は低く、一旦だめだと思うとずっとダメ、これが日本のメンタル上のマーケティングの壁になります。
全個体電池に対する期待度もあります。但し、ここは割り引くべきでしょう。出始めは価格帯が極めて高く、車種も限定されると見込まれるからです。数量が出始め、改善と改革が進むのに最低でも3年程度かかるのは普通です。とすれば一般の方が本格的に全個体電池のクルマを手にするのは2030年頃からと見るのが妥当だと思います。
合わせて街中にどれだけ充電設備が出来るかです。日本の場合、この普及が厳しいだろうとみています。コンビニなどで充電という発想がそもそもおかしいのです。基本の思想は駐車場に充電設備があるべきで、出先ではガソリンスタンドに併設された充電施設か時間貸し駐車場、高速道路のサービスエリア、道の駅が道標として正論です。
一方、日本の駐車場事情はマンション内か住宅地に点在する月ぎめ駐車場、及び戸建て住宅の駐車場です。都市部ではマンションが圧倒的だと思いますが、加速度的普及を促すには住民共有の充電設備では全く足らず、かといってそれぞれの駐車スペースにインフラ整備するのは巨額な投資となり、住民の追加負担は大きく同意は取りにくいでしょう。一方、街中の月ぎめ駐車場は青空駐車場であり、そもそも電源設備がほぼない状態ですから、そこに一定の電気設備となれば土地オーナーの投資額は大きくなります。それら土地の所有者はたいがい高齢者でその判断もおぼつかない方々に代わってその子供が積極的にそれを推し進めるとは逆立ちをしてもないだろうと思うのです。
補助金はどうでしょうか?アメリカはEV普及に本格的に努力をしています。カナダを含め、当初は「ドライブ距離が長い北米でEVが普及するはずがない」と言われたのは10年前ごろでしょうか?それがいまでは全然様相が変わったのはすそ野分野まで補助金を含め、投資をする姿勢があったからです。私の会社でEVインフラを80台分も導入したのはバンクーバー市の飴とムチ政策で25年からEV施設が一定台数ないと毎年の営業許可更新で年間100万円のペナルティが課せられるからです。
とはいえ、EVが一気呵成に普及するとも思えません。ドイツではコロナ対策費の余りをEV補助金に転用したのが憲法違反となり、補助金が止まり、9月以降販売が激減しています。補助金行政は各国政府の懐具合であり、不安定な世の中、どこまで期待できるかはやや疑心暗鬼であります。中国のEVの売り上げも落ちており、技術の進化とはやや裏腹な展開なのかな、と思っています。
その点からすると2030年のEV主流というのは日本では難しいかと思います。現時点での世界予想は2027年で内燃機関49%、HV28%、EV23%です。多分、これが後ずれし、2030年でも内燃機関は市場の半分ぐらいが残るだろうとみています。日本で本格的なEV化は2035年ぐらいからではないかと思います。
以前から何度も言っていますが、市場での普及はクルマだけが良くなればいいというわけではないのです。顧客のマインド、それ以上にインフラを含めた周辺環境が整うかにかかっているのですが、日本はその機運がまだないのが実態でしょう。この遅れを責めるなら政策的緩慢、これが全てです。敢えて言うなら国交省と経済産業省がその責を負うべきです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年12月29日の記事より転載させていただきました。
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