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資金疑惑が集中する安倍派の再評価

21世紀に入り、特にこの10〜20年、世界的に多次元の分野で歴史の歯車の逆回転が加速しています。世界も日本も、外交、政治、経済、社会もそうです。大きな問題から身近な暮らしの問題まで、われわれは「歴史をご破算に願いまして」の時代にほんろうされている。これが今年1年の総括です。

既存の枠組みが無残に崩壊し続けています。まずメディアが連日、報道している自民党安倍派の醜悪な政治資金規正法違反事件です。東京地検特捜部の捜査対象を安倍派に絞っています。

「安倍晋三回顧録」(中央公論新社)が出版されたのは23年2月です。「未公開インタビューの全記録」と本のカバーに書かれ、聞き手が「日本憲政史上最長の政権を徹底分析する。記憶が生々しいうちにより真実に近づくことを考えた」と前書きに記したこの本はベストセラーとなりました。

それから1年も経たないのに、「憲政史上、最悪の安倍派の政治資金疑惑」が明るみになり、検察は異例の規模の捜査態勢を敷いています。回顧録にはなかった安倍政治の裏側はなんだったのか。少しも真実に迫っていない。今、安倍礼賛論者、肯定論者は顔色を失っているに違いない。

首相官邸の中枢に司法関係のトップを据えたため、検察は人事権を握られ、長い沈黙の時代が続きました。安倍氏が故人になるや、安倍派と緊密関係にあった旧統一教会問題の摘発に続き、政治資金疑惑が浮上、検察はうっぷんを晴らすかのようです。歴史の逆転です。

「憲政史上最長の首相」という尊称を授けられた安倍氏の再評価を始めるべきでしょう。巨額の政治資金を派閥の議員にキックバックし、選挙戦を有利に戦い、最大派閥を構成・維持し、政策遂行の主導権をとる。カネで最大派閥、長期政権を買ったことになる。安倍政治の裏の顔です。

アベノミクスの評価も逆転期を迎えています。首相官邸主導で黒田東彦氏を日銀総裁に据え、異次元金融緩和と拡張的財政政策を10年続けました。その狙いは日銀による財政ファイナンスと円安誘導だったというのが定説になってきました。その結果、財政金融状態は主要国で最悪です。

デフレ脱却のために「異次元緩和で物価2%上昇」は大誤算で、物価が3、4%に上がったのは、海外資源高と円安による。国内発の物価上昇ではなく、海外からの輸入インフレでした。貨幣数量説は破綻しました。

さらに円安でドル建てのGDPは急落し、1人当たりでみると、G7ではイタリアに抜かれ最下位、OECD38か国中では21位で韓国並みです。「デフレ脱却の大実験」で日本経済の歯車は逆回転してしまった。

「安倍晋三回想録」は、アベノミクスで日本経済の国際的地位の落下を黙殺した書籍です。新総裁に座った植田氏は異次元緩和の出口になかなかたどり着けない。異次元緩和は3年程度で早く打ち切るべきでした。

国債発行残高(1100兆円)の50%以上を日銀が保有しています。来年度予算の国債利払い費は9.5兆円で、防衛費の7.9兆円を超えました。国家防衛増額の前に「国内財政を守れ」の声が大きくなるでしょう。