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  1. 2023年の政治の振り返り

    2023年が終わろうとしている。

    凡庸な、月並な感想にはなるが、まさに光陰矢のごとしで、月日が経つのが本当に早い。

    ついこの前、春先にWBCで大谷選手の活躍などで日本が優勝し、政治関連では、4月に統一地方選や補選があり、子ども家庭庁が発足し、5月にG7サミットにウクライナのゼレンスキー大統領がサプライズで訪問したと思ったら、もう年末だ。

    政治に“if”を持ち出しても意味はないが、岸田総理は、思えばサミット直後に衆議院を解散しておくべきであった。解散できない理由とされた総理秘書官だった岸田ジュニアの問題、官房副長官だった木原氏の問題などは、今の政治資金を巡る大問題に比べれば取るに足らない話にも見える。

    腰を据えて日本の改革を進めるためには、また、存在感を小さくし続けている国際社会で日本が着実な外交をするためには、更には、混乱する世界において民主主義の良さ・大切さについて身をもって証明するためには(二極化して不安定化を増す米国や欧州などの民主主義国家の代わりを担うには)、わが国の政権が、安定政権であることが絶対的に重要である。

    ところが、「歌手1年、党首2年の使い捨て」の格言どおり、岸田政権が、割と地道に必要な政策を実現しているにも関わらず、就任2年が見えて来た今年の夏~秋頃から支持率低下が顕著となった。そして、ここに来てダメ押しのように裏金問題が顕在化して支持率は地に落ちている。

    調査にもよるが、一部調査では岸田内閣の支持率は10%台と“危険水域”に突入し、多くの調査でも30%を切る状態となっている。自民党の支持率と合わせた、いわゆる青木の法則にいう「50%の危険水準」も多くの調査で切りはじめているという事態だ。

    検察は恐らく、金額の大きさという面(悪質性)で安倍派・二階派にターゲットを絞っているように思われる。更に、安倍派は、キックバック分を個人の収支報告にも記載していないということで裏金化していたという「強烈な悪質性」もあって、今回の問題の本丸となるであろう。塩谷氏の裏金を認めるような当初の発言(「還流があった」→撤回)もあって、検察は動かざるを得なかったという面もあろうが、事ここに至って、検察の究極のターゲットになってきている。

    全くの推測だが、私とはたまたま大学のクラスメイトでもあるが、この問題に火がついてから最初に公に派閥の指示の下でのキックバックと不記載を認めた宮澤議員(安倍派、防衛副大臣を辞任)などは、キックバック金額の少なさや比較的若いということなどから(大きな罪には問われないことから)検察側から見て、攻め落とす相手として格好の人材だった感じもある。

    宮澤氏の暴露発言時のメディアの集まり具合から考えて、事前にそうした発言が出ることがメディア側に織り込み済みで、誰が多くのマスコミを集めたのかは不明だが、全くの推測ながら、検察のシナリオに乗って、正直に発言したような可能性すらあるとみている。

    おりしも、このメルマガを書いている最中に、全く別の事件で、柿沢未途議員が選挙における買収容疑で逮捕されたというニュースが飛び込んできたが、もう、自民党への国民の信頼は滅茶苦茶な状態である。岸田政権の支持率は、これ以上下がらないというラインにまで下がるものと思われる。

    この裏金問題は、これからが本番である。キックバック額が大きく、何と議員会館にまで捜査が入ってしまった池田議員などはもちろん、ともすると、安倍派の5人衆の誰か(いずれも大物議員)が議員辞職などに追い込まれるくらいにまで、事態は発展していくことであろう。

    検察の立場から考えても、ちょうど昨日、東京地裁で警察と検察の違法捜査などが認定されたところでもあり(大川原化工機の訴訟。不正輸出問題)、その他、少し前になるが黒川高検検事長の定年延長やその後の賭けマージャン問題などもあり、彼らも失地回復に必死なところがある。本件で、名を挙げたいと考えるのが自然だ。

    野党も勢いづいている。ちょうど3週間前に地元京都での後援会で講演をしてきたところであるが、学生時代(弁論部時代)の友人でもある立憲民主党の泉代表は、連日テレビに登場し、自民党・岸田政権の不手際を論難している。

    講演の後、日曜の夜ということもあって地元の京都で彼とじっくり飲む予定が、立憲民主党幹部間での調整のため、慌ただしく東京に行く必要が出来てしまい、個人的にも残念なこととなった。「何をやっても野党は存在感がない」、「自民党も自民党だが、野党に政権交代能力がないのが最大の問題だ」、などと言われていたのが、急にメディア露出などが増え、勢いづいている。

    このように、岸田政権・自民党は、国民一般からはもちろん、メディア、検察、野党などから総攻撃を受けていて、もはや落城寸前にも見える。検察のテクニックかもしれないが、連日、裏金問題については、新たなネタがメディアに細かく供給されていて(どんどん「放火」されていて)、燃え広がる火が沈静化する雰囲気は全くない。上記の通りだが、これから、大物の逮捕や失脚(議員辞職?)ということが本格化していく可能性が高い。

    こうした事態を受け、岸田総理は、当面は安倍派の閣僚・副大臣を全員交代させ、二階派の閣僚は派閥を離脱させる形で当面の荒波を乗り越えようとしているが、これまた党内で色々な火種を抱えている。

    どうして大臣も副大臣も交代となった安倍派と派閥の離脱で済んだ二階派で扱いを分けるのかとか(記載の事実の有無の違いなど理屈はあるようだが)、安倍派の政務官も当初は交代させようとして反発を受けて留任になった事実とか、二階派の閣僚にしても、自見氏についてはその離脱を巡って派内が揉めているとか(受理せず、に)、党内の軋轢も色々と報道されているが、危機で本来は一枚岩にならなければならない自民党内も混乱している模様だ。

    問題の大きさのレベル感が違うものの、故安倍氏は、総理時代、集中砲火を浴びて火だるまになっている閣僚を割と守り(すぐには交代させず)、そのことで、世間や野党の反発は受けつつも、党内マネジメント的には、逆にまとまったという逸話もあるが、岸田総理は傾向として、故安倍元総理とは違い、閣僚等に問題が起こると、割とスパッと辞めさせる傾向にある。つまり、世間の感覚とは近い処断を下すものの、党内には恨みを残してしまうという話もあり、予断を許さない。

  2. 来年の政治を巡る展望

    昨年の政治の振り返り、ということで以上述べてきたが、現実も私の中でも、年末の政治資金の裏金問題に「全部持って行かれている」のが実態だ。それより前の出来事は、遥か昔のことのように感じてしまう。

    それだけのインパクトがある問題が発生してしまった上に、上記のとおり、この余波というか余震というか、ともすると本震が来年に控える中、一見、岸田政権の命運は来年早々にも尽きるように見える。

    実際、今後、大物議員をはじめ多くの自民党議員が議員辞職をしなければならないことになったり、まだ出て来ていないスキャンダルなどが表面化したりすると、メディアや野党がこぞってそれを突いて大騒ぎとなり、例えば来年3月末の予算成立と引き換えに、岸田内閣が総辞職をする、という事態も考えられないわけではない。

    ただ、普通に考えると岸田政権は、来年秋までの自民党総裁の任期一杯は続くのではないかと個人的にはみている。というのも、勝つ見込みの低さで、衆院選の解散は当面出来ない中、自民党内の動きが鍵となるが、ポスト岸田を狙う大別して3つの党内グループ(1 総理を支える岸田派・茂木派・麻生派、2 改革志向の強い菅前総理に近いグループや石破氏系など、3 新たに勉強会を立ち上げた高市氏系の保守派のグループなど)のいずれも勢いを欠いているからだ。

    そもそも、現下のスキャンダルの嵐の中で政権を担うことは(自民党総裁となることは)、比喩的に書けば「ババを引く」に等しい感じもある。仮に岸田総理を引きずりおろして新総裁が誕生しても、上記のとおり、すぐに秋にまた総裁選となってしまう。それまでの短い期間に電撃的に政治とカネをめぐる諸改革を進められればいいが、そんなことは現実には難しい中、袋叩きにあって、再任が不可能になってしまう可能性も低くない。9月まで待つ方が賢明だ。

    立憲民主党や維新の会などの野党も政権を取って代わるほどの勢いやリアリティはなく、したがって、支持率低空飛行のまま、岸田政権が続くと見るのが妥当に思う。

    自民党にとっての最高のシナリオを考えると、岸田さんで何とか来年秋までもたせ、そこで新総裁を選出して、ご祝儀相場の中で(新総裁の下で、比較的支持率が高いうちに)、「国民に新政権の信を問う」とばかりに解散に打ってでる、ということになるのではないか。

    翌年の2025年には万博の開催がある。オリンピックや万博の良くあるパターンだが、これら大イベントは、開催するまでは批判の嵐だが(現在の万博批判が典型)、いざ開催してみると「やって良かった」となる。やって良かった万博を背景に、25年夏に衆院を解散し、任期が決まっている参院選と同日選挙、というのも一つのシナリオだ。

    来年は、早々に岸田総理主導で、党内に今回の裏金問題を受けて、これまでの在り方の見直しや信頼獲得のための新組織を立ち上げるという話も出ているが、要はしばらく、政治的スキャンダル、裏金絡みの話が続き、政権は低位安定的に推移するものとみている。政局的な勝負は秋の総裁選以降、ということになると私的には感じている。

    これは、先日、やはり政権支持率が調査によっては20%を切るような厳しい状態に陥った経験を持つ某元総理秘書官から聞いた話だが、「総理というのは、本当にやりたいことがやれるのは、支持率が凄く高い時と、凄く低い時だ」とのことだ。前者は分かるが、後者(支持率が低い時)でなぜやりたいことが出来るのかと言えば、もう後がない(これ以上落ちようがない)となれば、逆に開き直って、何でもやれる気持ちになるとのことだ。首肯できる。

    苦境にあるはずの岸田総理なのに、現状、画面越しに表情等を見ると、何となく追い込まれている感じがなく、むしろ生気に満ちた晴れ晴れとした表情であると感じるのは私だけではないと思う。1 どうせ、来年の総裁選くらいまでは、自分(岸田総理)にとって代わる勢力は出てこないし、2 いずれにしても、未曽有のスキャンダルで支持率上げるのは困難なので、開き直って頑張ろう、といった気分なのではなかろうか。