ステアリングを握ると自然に笑みがこぼれる
ユーノス・ロードスターのテストドライブは、本当に楽しかった。時間を止めて、いつまでも走っていたかった。フルオープンの大きな開放感に浸って走るのはやはり素晴らしい。ワインディングロードをハイペースで飛ばす醍醐味も、それはもう最高だ。
昔、ボクはMGAとMGBに乗っていた。兄が持っていたトライアンフTR-4も、しじゅう乗り回していた。MGミジェット、ヒーレー・スプライト、トライアンフ・スピットファイアといったクルマをマイカーにしていた友人も、ボクの回りにはいっぱいいた。 そういったブリティッシュ・ライトウェイトスポーツは、ボクにオープンエアモータリングの素晴らしさを思い切り味わわせてくれた。スポーツカーを操縦する楽しさを教えてくれた。
そんな過ぎた日々の楽しく懐かしい思い出を、ユーノス・ロードスターは鮮やかに再現してくれた。コクピットで風に巻かれ、テールを流しながらコーナーをクリアするたびに、ボクの目の奥には当時のいろいろなシーンが浮かんできた。体にはその感触が、まざまざとよみがえってきた。
ユーノス・ロードスターは、まさにあのブリティッシュ・ライトウェイトスポーツのテイストを、現代に再現したクルマといっていい。
はるかに快適さを増し、性能アップし、ドライビングは容易になっているのだが、ユーノス・ロードスターのテイストは、根っこの部分であのブリティッシュ・ライトウェイトスポーツと強く結びついている。「クルマと一体になって走る」という点で、ブリティッシュ・ライトウェイトスポーツとユーノス・ロードスターは、まったく共通したテイストを持っている。これは素晴らしい。
ボクはユーノス・ロードスターがすっかり気に入ってしまった。そして、早々に予約を入れてしまった。秋にはボクのガレージに、現代のライトウェイトスポーツが届くはずである。ボクは、いまから楽しみでしようがない。
キャビンは魅力たっぷり。エンジンはもうちょっとエキサイティングであってほしい
ユーノス・ロードスターのルックスも気に入った。ちょっぴり気取っていて、ちょっぴりファニーなのだ。小型の遊びグルマにボクの求めたい要素が、しっかりと封じ込めてある。オープンにしたときのプロポーションはいいし、ソフトトップを上げたときの雰囲気もいい。しかもハードトップを装着したスタイルは最高だ。
コクピットは心地のいいタイトさだ。乗り込んだ瞬間から、クルマと一体になって走れる期待のふくらむコクピットである。オープン感覚が豊かなのもうれしい。たたんだソフトトップは、完全にボディ内に収まるので、振り返った場合の開放感も大きい。
ドライビングポジションは、まさにスポーツカーのそれだ。シートに深く腰をかけ、自然に手足を前方に突き出すと、ステアリングホイールがあり、ペダルが配置されている。シフトレバーの位置にも注文をつけるところはない。とにかく、ベストな自由度で操作できるのだ。スポーツカーにとって最も大切なポイントを、ここでもピタリと押さえている。
シートもOKサインが出せる。人によってはもう少しタイトなホールド感覚のあるほうがいい、と思うかもしれない。だが日常的な快適さと、ハードなコーナー攻めとのバランスポイントは、ちょうどいいところを探り当てたとボクは評価している。
ユーノス・ロードスターはもちろんFR方式である。ノーズに積み込んでいるのは1.6リッター直4ツインカム16Vだ。
スペックは120ps/6500rpm、14.0kgm/5500rpm。数値自体は、大して魅力的とはいえない。だからシグナルGPにしか興味のないようなドライバーには、このクルマは勧められない。
レッドゾーンの始まりは7200rpmだが、そこまで何のストレスもなくスムーズに吹き上がる。各ギアの伸び感もなかなかいい。ただ、加速感はあまりメリハリがない。比較的淡々と引っ張り上げていく。できればもうひと息、トップエンドのパワーの伸びに、切れ味がほしい。そうすれば、もっとドキドキ、ワクワクできただろう。ワインディングロードをホットに飛ばすときのドライビングのリズムも、エキサイティングになったはずである。
ドキドキ、ワクワクの代わり、タウンスピードでの扱いやすさは優秀だ。日常的な足としてのユーノスは、とても扱い勝手がいい。だから、ちょっぴりスポーティな走りを味わえれば、あとは雰囲気を楽しむだけでいいというユーザーには、このエンジンに文句はないだろう。しかし、本格的に走りを楽しむユーザーは、もうひとつエキサイティングな方向のエンジンを望むように、ボクは思う。
エンジンの音質についても、物足りない思いがある。何となくザラザラした感じで、透明度が不足している。ロードスターが輝きを増していくためには、このパワーフィーリングと音質は超えなければならないハードルだといっていい。