事態が進展したのは、今年の5月だったという。ライターのアン・カデットさんが地元の「ステーキハウスのミステリー」について調査を開始。レストランに連絡を取った際、メヘラーンさんは「すべてが台無しになる」と感じ、架空のレストランを実現させる計画を開始した。
メヘラーンさんらはこの時、すでに家を引き払い、ベイエリアに引っ越ししていた。イースト・ヴィレッジのイベントスペースを予約し、予約待ちのリストに登録していた900人に、席が空いたと連絡を取った。
メヘラーンさんはスタッフとして、60人のボランティアを急遽招集した。全員が大学生か中退した学生で、調理経験のある人はほとんどいなかったため、ステーキハウスに出かけ、サービスなどの調査を行ったという。
当日は140人が来店
ニューヨークポスト紙によると、23日にイースト・ヴィレッジのイベントスペースで開催した一夜限りのディナーには、140人の客が訪れたという。店内で撮影された写真には、ジャケットやドレスを着た身なりのよい客の姿が映っている。
その日は、114ドルのコースメニューが提供された。テーマは「牛の一生」で、メニューには「インテリ風の訳の分からない文章」が並んでいたという。ウェイターは牛乳をグラスに注ぎ、「ウガンダのフィリップという名の牛からとれたミルクだ」などと説明した。メヘラーンさんは、「真面目そうなシェフ」に扮し、ディナー中、テーブルの間を歩いていたという。食事中、店の外にいた群衆がラッパーのドレイクが中で食事をしていると叫んだり、客が突然膝をついてプロポーズをしたりするなど、手の込んだ「演出」などもあった。ポスト紙は「典型的なニューヨークのレストランの雰囲気」だったと伝えている。
タイムズによると、客はすぐに、このレストランの様子がおかしいことに気づいたという。救急治療室の医師と産婦人科医は「騙された」と思い、笑っていたと語っている。会計士の客は、プロポーズの場面で「社会実験」だと確信したという。
シックスポイント・ブルワリーのブランドマネージャー、カイル・ヘルツォホ氏は、疑念を抱きつつも、好奇心から店を訪れたという。「NYで秘密を守ることなど不可能」「業界人は誰もこの店について知らなかった」と語っている。若いスタッフがぎこちなくワインのボトルを開け、スタッフの人数とコストが合わないことから「計略」だと悟ったという。ヘルツォホ氏と一緒にいたあるホスピタリティグループのキャスリン・シュレイダー氏は、「自分たちはネットジョークのオチを演じていた」と失望感を示した。
ポスト紙によると、飲食店がフェイクだと知り、法的措置を検討すると宣言するカップルもいた。一方、オペラ歌手のスコット・トーマス氏は、「ここはニューヨークだ。どこでも食事はできる。今回の楽しみはプライスレス」と語ったという。