ロシアで3月17日、大統領選が実施される。投票結果が最初から分かっている選挙だけに米大統領選や欧州議会選のような興奮や熱狂はロシア国民から聞こえてこない。耳に飛び込んできたのは、立候補のために必要な支持者署名数を集めた野党政治家が中央選挙管理委員会によって出馬資格を無効にされたというニュースだ。

中央選管は8日、ウクライナ侵攻に反対する独立系のナジェジディン元下院議員の候補者登録を認めなかった。その理由は提出された支持者署名のうち約15%が名前や住所が不正確だったからだ。

通算5期目を目指すロシアのプーチン大統領(2024年02月08日、クレムリン公式サイトから)

国内のメディアを管理し、野党や反体制派の政治活動が厳重に監視され、制限されているので、通算5期目を狙うプーチン大統領は対抗候補者を恐れる必要はないのだが、「選挙は水のもので、結果は分からないため、用心に越したことがない」というわけで、女性候補者の出馬を止めるなど、あらゆる手段を駆使してきている。

当選確実なプーチン氏だが、懸念していることは一つある。投票率だ。プーチン大統領の政治に不満や反発を持つ有権者が投票を棄権し、選挙が低投票率で終わった場合、欧米メディアは「プーチン氏は当選したが、投票を棄権する有権者が多かった。プーチン氏が始めたウクライナ戦争に反対する声が予想以上に多いことを示唆している」と報じるだろう。

例えば、投票率が49.9%の場合だ。ロシア国民の過半数がプーチン大統領に投票するのを嫌い、棄権したことになる。だから、プーチン氏は低投票率を恐れているのだ。

オーストリアのインスブルック大学のロシア問題専門家、政治学者のマンゴット教授は「プーチン氏は悪くても65%の投票率を願っている」という。高投票率は非現実的だから、欧米諸国の大統領選と同程度の投票率として「65%」という数字が出てくるわけだ。

プーチン氏がここにきて警戒しているのは投票率だけではない。プーチン氏がウクライナ戦争に送ったロシア兵士の妻や母親たちが「夫を返せ」「息子を戻せ」といった抗議デモを行ってきたことだ。