■「土地を持ってないから関係ない」は危険?

近年における代表的な地面師事件の判例について、髙野弁護士は「最も有名であり社会を賑わせたのは、ドラマの元ネタでもある積水ハウスが被害者となった事件(2017年)でしょうか」「また、東京都渋谷区富ケ谷の土地が対象となった事件(2021年)もあります。弁護士が地面師と組んでいた疑いが持たれていました」と、例を挙げる。

地面師だけに限らず、詐欺というのは後から第三者が見ると「なぜそんな方法で騙されるの?」と感じてしまうほど、手口が杜撰なケースも珍しくない。

こうした事例について、髙野弁護士は「そこはやはりプロの詐欺師。現場での雰囲気づくりが上手いのでしょう。現に、騙されてしまう人がいるから事件になるわけです」と、頷いてみせる。

言うまでもなく、地面師がターゲットにするのは、土地を所有している人物。そのため「そんなに価値のある土地を持っていない」「そもそも土地を持っていない」といった理由から、地面師事件を「他人事」と感じている人も多いのではないだろうか。

地面師のターゲット問題について、髙野弁護士は「地面師詐欺のスタートは、グループのひとりが騙すために利用する不動産を見つけてくるところから始まります。地面師たちは、土地の所有者になりすまして金銭を騙し取るわけですから、本物の所有者と、騙そうとしている相手や自分たちが接触してしまうケースをとても警戒します」「そのため、地面師たちが見つけてくる不動産は、そのようなリスクが低い物件ということになります。典型的なものは、所有者がその土地の近くに住んでいないケースや、入院や施設に入っているなどの理由で外を出歩く可能性が低いようなケースです」と説明。

加えて、「もし、ご自身やご家族がそのような状況にある場合には、注意したほうが良いかもしれません」と呼びかけていた。そう、自分だけでなく「親族」が地面師の被害に遭うケースも十分に考えられるのだ。

都内パーキングに現れた警告、怖すぎる内容にギョッとした 「地面師」の足音に驚きの声
(画像=『Sirabee』より引用)

そしてさらに気をつけるべきなのが、自身や親族の土地を利用されたり、金銭を騙し取られたりするのではなく、「詐欺の片棒を担がされる」というケース。

髙野弁護士は「ドラマでも描写があったように、所有者になりすます役は地面師グループにとって『末端の使い捨て』と認識されており、多くの場合はグループ外から連れてこられます。その際に『契約者が体調を崩してしまったので、代わりにその場で座っていてくれれば良い』等と言われ、アルバイト感覚で手伝ってしまう人がいないとも限らないでしょう」と、例を挙げる。

本人が無自覚のまま「運び屋」として利用されるケースや、「闇バイト」を入口とする事件が多発している実情から見ても、こうしたリスクが決して低くないのは明らかだろう。

髙野弁護士は「このような方法で協力した場合、仮に詐欺が成功して金銭を騙し取れたとしても、事前に約束した報酬を払ってもらえないことも珍しくありません。報酬ゼロで犯罪に加担することになるわけです」とも補足していた。

このように、例え土地を所有していない人物でも、思わぬ形で地面師に利用され、搾取されるケースが考えられる。ドラマのブームを切っ掛けに、改めて注意喚起したい。

都内パーキングに現れた警告、怖すぎる内容にギョッとした 「地面師」の足音に驚きの声
(画像=『Sirabee』より引用)

地面師たち (集英社文庫)