今月発売の『文藝春秋』11月号にも、連載「「保守」と「リベラル」のための教科書」が掲載です。リベラル担当の私が挙げる5冊目は、ウィリアム・フォークナーの『響きと怒り』。
ご存じのとおり、来月にはハリス vs.トランプの米大統領選があるので、それに絡めて書きたかったんですよね。結果として、ベストな作品にたどり着けたと自負しておりますが、よろしければ無料部分をこちらから。
「トランプを論じるならフォークナーかな?」と思いつくきっかけは、米文学者の都甲幸治先生と、昔行わせていただいたイベントでした。2021年刊の『教養としてのアメリカ短編小説』とのタイアップで、同書にフォークナーの「孫むすめ」(1934年)が採り上げられていたんです。
都甲さんの紹介を読んだ際から、「怖っ!」とゾクゾク来ると同時に、トランプを取り巻く空気の源泉もここなのかな、と感じていました。
「孫むすめ」は南北戦争に敗れた米国南部を舞台に、原文にもWhite Trashとあるとおりのプア・ホワイトの心理を描いています。いま風に言えば、グローバルな競争から脱落した、ラストベルトの白人労働者にも近い存在。
サトペン家の黒人奴隷たちまで、ワッシのこうしたウソッパチについて伝え聞いた。彼らは笑った。彼らがワッシをあざけり笑ったのはこれがはじめてではなかった。かげでは彼のことを、”白人の屑” と呼んでいたのである。
沼地の魚釣り小屋からあがってくる半分消えかかった道で彼に出あうと、彼らはひとかたまりになって、自分たちのほうから、彼にこんなことをきくようになった――「白人のだんな、どうしておめえさんは戦争に出かけねえんですかい?」