また、ラーメン屋さんからマンガ喫茶から、物流関係のしごとまで、今後の日本は「ガチで人手不足の時代」をいかに「省人化技術」で乗り越えられるか?というチャレンジを徹底してやっていく事が必要なんですが、そういうのも、「この文脈」で捉えて、社会の末端の調和が破壊されないようにしながら、「ある程度資本主義のパワー」が行き渡って効率化が行われていくように監視し続けることが必要ということなのだと思います。
4. ”クリエイター業界”は別の配慮が必要で、「普通の産業」の零細業者は、徐々に上記のように「統合して最低規模を増やしていく」ことで解決できそうだな、と思ってるんですが、一方である種のクリエイタービジネスの場合は、その「健全性」を保つためにあと二重三重の特別な工夫が必要だろうなと思います。
特に、アニメ制作とか、漫画制作とか、そのあたりの世界的にも評価の高いコンテンツの「健全性」をどう守るか。
よく言われてることですが、コンテンツみたいなのは「多産多死」をいかにやれるかが大事なんですよね。
だから、今の漫画業界みたいに、「売れるかどうかわからない時」は手弁当みたいな形でほとんど自腹でネームを何度も持ち込んで、何度もボツになって、いざ!となったらやっと正式に契約して、しかも最初は場合によってはローンを組んでアシスタントを雇って云々…みたいなシステムは、
一応の合理性
…はあるはずなんですよ。
これも、さっきも書いた「理屈通りにはやらない事の合理性」っていうか、社会の末端でナアナアに色々と甘え合うことで「本当に大事なこと」を実質ベースでやるみたいな構造が生きている部分ではある。
ただ!これを永久に続けるの?って言われると、それもちょっと問題があると思うんですよね。
というのは、こういうのって日本社会が昭和の経済大国の余波でマアマア豊かだった時代の産物であって、だからバイトみたいな境遇でも普通に生きていける環境の中で、「正式デビューまでは手弁当で、出版社はその分をカバーしません。みんな自力で頑張ってね」ってことでやれてきたわけですけど。
今後だんだんそういう「社会の余裕」がなくなってきたら、ちゃんと出版社とかが正式にそういう部分ごとカバーしなさいよ…という流れに持っていくべきなのだと思います。
これは、いわゆるアメリカの「ベンチャー企業のエコシステム」みたいな話と一緒で、あまりにスジ論にこだわって「マトモな勤め人はこの程度の苦労は当然してるんだから起業家も同じことやれ」っていうふうにやりすぎると(それはまあ正論ではあるけど)、本当に「多産多死的なチャレンジ」に人々を誘導することができなくて社会の中でのクリエイティビティが死んでしまう。
だから、ちゃんと「あまりに断崖絶壁をよじ登らないと漫画家を目指せない」みたいな環境にならないように、「練習生」レベルの時からある程度食い扶持は確保できるようなシステムを整備すべきというか、少なくとも例えば「新人漫画賞の入賞者がデビューするまでの数年限定」とかなら、「食い扶持」レベルのものは出版社が保証する仕組みとか、そういうものも整備されていく必要はあると思います。
他にも、SNSで業界の人が話しているのを見た感じでは、
新人漫画家が自前でアシスタントを雇用して週刊連載を成り立たせるのは本当にしんどい。さらにインボイスがそこを直撃してしまう。 出版社が音頭を取って、アシスタントが複数所属する会社を作って、適宜そこから新人漫画家に必要なサポートを提供するような仕組みを作るべきでは?
…みたいな話が出ていましたが、こういうのもちゃんとやっていくことが大事ですね。
今はネットで、自分で漫画を売り出してまあまあ稼いで、ある程度知名度を得てから正式に「出版」デビューみたいな回路も出てきているし、時代に合わせた色んな仕組みを活用しながら、
業界全体でいかに健全な”多産多死”が維持できるか?
…を皆で考えていく事が必要なのだと思います。
アニメ業界とか、漫画業界とか、ありとあらゆるそういう「クリエイター」業界において、それぞれ特有の課題と向き合って、ちゃんと「マトモな理屈で成り立つ構造」を考えていく試みを、この機会に皆でエンパワーしていきたいですね。
5. 政府批判と同じだけ、出版社とかアニメ制作会社にも要求をしていくべき時ここまで書いてきたような意味で、インボイス反対運動には、「マトモな勤め人」の人が本能的に反感を持ってしまうほどには「無理筋」とは言えないし、主張することで「緩和策」を手に入れる事は意味があると思うので、まあ頑張ってやっていただければいいと私は思ってるんですが。
ただ!
ひとつ思うのは、「政府批判」をするエネルギーの半分でもいいから、「出版社」とか「アニメ制作会社」とか、その「業界の改革」にもエネルギーをかけて主張していってくれたらと思っています。
「クリエイター」の人がインボイス関連で文句を言ってる内容のうちの結構な部分が、
いやいや、それはむしろ「業界」の問題でしょ?取引してる出版社にもっと強く是正求めなきゃ!
…みたいな内容がかなり含まれていると思います。
あと、これはクリエイター関連の話だけじゃなくても、普通に日本はもっと「賃上げ闘争」をやるべきなんですよ。
特に、長年のデフレ状態でとにかく社会の安定を保ってきた20年が終わり、インフレ局面で「攻め」に転じないといけない時期に来てるんだから、とにかく「賃上げ」を求めていくことで、賃上げに対応できない『会社』はとりあえず精算してむしろ『個人』の方を守るようにしていかないといけない。
私は経営コンサル業のかたわら色んな個人と「文通」をしながら人生を考えるって仕事もしていて(ご興味があればこちら)、そこには普通の勤め人から大学教授から主婦の人までいるんですが…
それで繋がってる人の中に、前も書きましたが僕と同世代ぐらいの労働組合の人がいるんですが、その人が、
今こそ賃上げ圧力をかけていく事が必要な時なのに、上の世代の組合の幹部は、「いつもの”左翼全部のせセット”をいつもの内輪だけのイベントでいつものように叫ぶだけの自己満足イベント」をすることしか興味がない。むしろそれに非協力的な若手組合員を攻撃してきたりする。
…と言ってて、なんか凄い考えさせられました。
今やキッカケさえあれば企業側も賃上げには乗り気で、むしろライバル会社に対する優位性を構築する大事な機会だとすら考えてるフシがあるので、どんどん「賃上げ圧力」をかけていくべきときだし、それに集中してメッセージを発していけば社会は本当に「変わる」可能性が目の前にあるんですよ。
そういう意味でインボイスに関しては、政府批判も必要でしょうが、ちゃんと「自分の業界」の不公正や、「賃上げしない企業」に対してもどんどん文句を言っていくことが大事だと思います。
そうすることで、日本社会の末端を「無理やりナアナアに」運営していた状態から、「ちゃんと末端まで公明正大な理屈が通りつつ調和も保たれている」状態に移行していけるはず。
インボイスにあくまで反対するにしても賛成するにしても、この問題の背後にはこういう「日本社会ならではの事情」があるのだと理解して、協力して解決策を考えていく姿勢をぜひ持っていただければと思っています。
それはそうと!
これは地味にめっちゃ良い案と思う。皆で突っつき回した挙げ句折衷案の折衷案になって複雑怪奇な処理を皆がさせられる日本あるあるをやめていきたい。インボイスに関して日本社会が考えるべき問題については昔記事書いた→SQnezGH19eがまた書くかも? LXqt278pN
— 倉本圭造@新刊発売中です! (@keizokuramoto) September 29, 2023
国民民主党の玉木氏が、「そもそも軽減税率なんかあるから無駄に複雑になってるんだ」というめっちゃ正論を言っていて、これを機会に全部8%にすればいいじゃないか…という意見を書かれていたんですが、これほんとぜひ検討していただきたい。
これは冒頭にリンクしたインボイスについての昔の記事でも書きましたが、あらゆる人に忖度して妥協に妥協を重ねた結果、やたら複雑になったシステムを「みんな」が無理やりやらされて疲弊するっていうのが、「日本あるある」の中で一番困るヤツですからね。
「複雑な作業」の手間を増やしても、はっきり言って一切国民生活は向上しないわけなので、「実際の手間のレベル」を考えて「仕組み」を作っていくという発想もぜひ重視していただきたいと思っています。
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つづきはnoteにて(倉本圭造のひとりごとマガジン)。
編集部より:この記事は経営コンサルタント・経済思想家の倉本圭造氏のnote 2023年9月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は倉本圭造氏のnoteをご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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