習近平が、なぜ武力を以ってしても台湾を統一するという野望を抱くのかとの問いの答えの一つに、半導体受託生産世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)を手中に収めたいから、というのがある。目下の米日韓蘭などによる先端半導体に係る対中制裁は、経済の低迷、若者の記録的な高失業率、外国投資の減少、地方政府の債務急増など、失政の悪材料が重なる習の肩に重くのしかかる。
こういう時だからこそ、訪問中の台湾で麻生自民党副総裁が8日、中国を念頭に「台湾海峡で戦争を起こさせない抑止力として、日・台・米などには“戦う覚悟”が求められる」との趣旨を述べたように、習の野望が割に合わないことを中国の人々に悟らせる振る舞いが、自由主義陣営に求められるのではなかろうか。敵が手強いとなれば利に敏い中国人のこと、習の我執で生活が破綻するのを拱手傍観するようには思えない。
その麻生訪台に合わせたかのように、7〜8日にかけて韓国(朝鮮日報)、台湾(中央社)、英国(ロイター)の各紙が、中国離れを加速するTSMCの話題を報じている。
7日の「聯合ニュース」(ニュース配信会社)を引用した朝鮮日報の「TSMC創業者『韓・日・台が半導体の急所を握っている…中国は米国に勝てない』」との見出しの記事は、TSMCの創業者モリス・チャンがニューヨークタイムズ紙のインタビューに応じて、半導体競争における中国の将来について述べたことを報じている。
チャンは米国が主導する韓日台の半導体同盟に言及し、「我々が(世界の半導体サプライチェーンの)急所をしっかり握っている限り、中国にできることは何もない」、「一部の米国企業が中国と事業する機会を失ったり、中国が半導体販売禁止を回避する方法を探ったりすることはありうるが、それでも好ましい決定だ」と評した。大陸出身のチャンは「自分は中国共産党を避けて台湾に来ており、1962年に米国で市民権を取った後はずっと米国人というアイデンティティーを維持してきた」とも述べている。
韓国の主要紙がこの台湾企業の話題を報じる背景には、昨今の中韓関係の悪化のみならず、半導体の先端材分野でTSMCとサムソンが熾烈な競争を繰り広げている事情がある。中国を主要な市場としてきた両社だが、呼び掛けに応じて共に米国進出にも取り組み中だ。特に韓国経済の大黒柱であるサムソンは、財閥虐めで副会長を入獄の憂き目に遭わせた従北文政権から尹政権に代わったのを機に巻き返しを図りたいところだ。
8日の「ロイター」記事では、21年からドイツ東部ザクセン州と、ドレスデンに製造工場を建設する可能性を協議してきたTSMCが同日、ドイツへの初進出に35億ユーロを投じることを同社取締役会が承認したと報じている。