「国、貧すれば民、とん走す」。こんな言葉はありません。私が今思いついただけです。「とん走」という言葉を敢えて使ってみたのはこの言葉には2つの意味があり、逃げるという意味の他に自分の過去を忘れ去るという意味が内包されているからです。
だいぶ前ですが、カルガリー在住のある日本人男性と接したところ、当時、日本を出て20年ぐらいだったはずですが、日本語を全く喋れなくなっていたのです。その間、日本にも行ったことがなく、日本の思い出もあまりない、というわけです。まさに「とん走」であります。ちなみに「棄民」という言葉は国家が民を見放す行為であって自分から出ていくというより「棄てられた」場合を言います。以前、私のことを「棄民者」と言いつけたコメントがありましたが、これはそもそも使い方が間違いであります。
1997年の韓国危機の際、韓国を脱した若者は多く、その後、落ち着きを取り戻した後も国外脱出を考えている韓国人は多くなっています。私の韓国人の友人の一人はサムスン電子で97年の危機の際にリストラされた優秀な男でした。家族そろってカナダにきて自分で警備会社を立ち上げ、私と協業して自動車のナンバープレートの認識装置をカナダでほぼ初めて導入するプロジェクトをやったこともあります。彼は社長として今では安定し、すっかりカナダ人になってしまい、韓国系のイベントに行けば必ず出席していて、よもや話をします。彼らの年代、つまり97年頃に30-40代前半だった人達の国家への危機感は想像以上のものがあります。
さて、中国の経済不振ぶりは目を覆うほどになっていますが、当然、14億人を食べさせるだけの経済の回転が効かなければ日々の生活に行き詰まるのは目に見えています。1月19日のブルームバーグに「中国脱出する富裕層やミドルクラス-移民で世界の風景一変、緊張も」という長い記事が掲載されているのですが、2月13日には日経が「米国境に中国移民10倍増、現地ルポ 熱帯雨林を踏破」と題して、まさに現地のルポ調査をしたこれまた長文の記事があります。ブルームバーグの記事の一節に「自由への憧れ」とサブタイトルをつけ、「シンガポールやアラブ首長国連邦(UAE)に高級物件を購入する資産家から、密入国請負業者の助けを借りて米国・メキシコ国境を越えようとする貧困層まで、中国からの移民はさまざまだ」と記しており、日経のルポ記事はこの後段の部分に焦点をあてた形となっています。つまりブルームバーグの記事の方が全体像が良く見えるわけです。
それによると中国国家は流出する移民数を発表していないが国連調査で19年までの10年間の平均は年間19万人が、この2年(20-21年、つまりコロナ規制の時期)は31万人を超えたとあります。さらにある調査会社によると今後2年で更に70万人が国を出ると予想しています。
ブルームバーグの記事が比較的富裕層で海外移住をして心機一転ビジネスをして生計を立てるというのに対して日経のそれはまさに棄民、難民のような話です。そもそもどうやってアメリカ国境までいくのかと思えば、タイ経由エクアドルに飛び、そこから車でコロンビア、更に船と徒歩でパナマ。再びクルマでメキシコに入り、アメリカ国境まで行くというすさまじさであります。