山田さんの説明しているケースでは、年金だけなら17年(82歳)以上、健康保険も入れると28年(93歳)以上、長生きすればもとが取れます。

でもこれは本人負担だけの計算です。保険料は労使折半ということになっていますが、企業にとっては事業主負担も人件費なので、合計30%のコスト増になります。

直接、給料から引くのは15%ですが、あとの15%は採用を減らしたり、インフレでも賃上げをしなかったりして、最終的には従業員が30%負担することになります。そういう効果を入れて計算すると、40歳以下の人は全員、払い損になるというのが島澤諭さんの計算です。

Q. どうすればいいんでしょうか?

いちばん簡単なのは、週19時間までしか働かないことですが、これはいま問題になっている「働き控え」です。複数の会社で19時間はたらいても社会保険料は取られないので、かけもちで勤務することも考えられます。

もう一つはパートが会社員ではなく個人事業主になり、業務委託で働くことです。この場合でも本人の130万円の壁は残りますが、事業主負担はなくなるので、企業にとっては節税になります。

Q. なんかややこしいですね。これで働く人は幸せになるんでしょうか?

厚労省の建て前は、厚生年金は本来すべての労働者がはらうべきだが、今までは中小企業や非正規労働者を例外にしてきた。それをなくしてすべての労働者が保険料を負担し、十分な年金を受け取れるようにするということです。

でも本当の目的は、年金財政の赤字の穴埋めです。特に国民年金は未納が半分近くになり、それを税金で埋めているのですが、これを厚生年金の保険料で埋めることが目的です。こうして場当たり的に取りやすい会社員から取る制度は不公平なので、やめたほうがいいと思います。

Q. やめさせることはできるんですか?

この年金法改正は厚労省が法案をまとめ、自民党が総選挙で公約したので、今までなら内閣提出法案として国会で可決されるはずでしたが、今は自民・公明が少数与党なので、野党が一致して反対したら否決できます。こういう署名運動も始まっています。