ただ、軍事大国ロシアとの戦争では最重要な点は現場の軍指導者の手腕というより、欧米諸国からの先端武器の供与が勝敗を左右する最大の要因である点には変わらない。シルスキー総司令官が願っている無人兵器システムと電子戦の使用も欧米諸国からの提供なくしては実現できない問題だ。クレムリンのペスコフ報道官はウクライナ軍のトップ人事について「モスクワとキエフの間の戦争の行方に如何なる変化ももたらさない」と冷静に述べている。
一方、ロシアのプーチン大統領は6日、元FOXニュース司会者のタッカー・カールソン氏とのインタビューの中で、「米国はウクライナへの武器供与をストップすべきだ。米国が武器供与を停止するならば、停戦も短期間で可能だ」と指摘、ウクライナのその後について、「米国と交渉する用意がある」と示唆している。
ちなみに、ロシア軍の北大西洋条約機構(NATO)のポーランドやバルト3国との戦争の可能性について、プーチン氏は「そんな考えはない」と即座に否定している。インスブルック大学の政治学者、ロシア問題の専門家、マンゴット教授は、「プーチン大統領は核兵器は別として通常兵器での戦争ではロシア軍はNATO軍との戦いで勝利のチャンスがないことを知っている」と分析している。
ゼレンスキー大統領は2022年10月11日、主要7カ国(G7)諸国の首脳に対し、ロシアの脅威を克服するために「平和の公式」を発表している。その中では、「敵対行為を停止するには、ロシアはウクライナ領土からすべての軍隊と武装組織を撤退させなければならない。国際的に認められているウクライナの国境に対する完全な支配権を回復する必要がある」と明記されている。ゼレンスキー氏はロシア軍が占領しているウクライナ領土の20%余りを奪い返すまではロシアとの停戦は考えられないというわけだ。
それに対し、プーチン氏は先の米ジャーナリストとの会見の中で、「ウクライナでのロシアの占領地を認めるならば、交渉もあり得る」と指摘する一方、ゼレンスキー大統領との交渉ではなく、米国との交渉の用意があるというのだ。
プーチン大統領の関心はゼレンスキー大統領の提案にあるのではなく、米次期大統領選の出方に注がれていることが分かる。例えば、ウクライナへの支援停止を主張するトランプ氏が大統領に復帰すれば、プーチン氏としてはトランプ氏との交渉でウクライナの未来を決定するというのだ。
なお、ウクライナへの最大支援国・米国の連邦議会は総額1105億ドルの「国家安全保障補正予算」の承認問題で共和党と民主党の間で対立を繰り広げている。補正予算のうち約614億ドルがウクライナへの援助に充てられているが、共和党議員の中ではウクライナ支援の停止、ないしは削減を要求する声が高まっている。
ロシア軍がウクライナに侵攻して今月22日でまる2年目になる。その日を前に、ゼレンスキー大統領は軍のトップを換えることで再反攻作戦への準備態勢を敷く一方、プーチン大統領は米メディアとのインタビューを通じて、米国にウクライナの停戦交渉を呼び掛けたわけだ。ウクライナ戦争の「3年目」への両大統領のスタートポジションは明らかに異なっているのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年2月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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