ではここからです。この包括的で戦略的なパートナーシップは現在、ウクライナという明白な目的があるからこそ、その意味合いをフル活用できるわけです。ただ、この戦争がいつまでも続くわけではないでしょう。それが終わった時、この関係がどうなるのか、これが最大のキーポイントではないかと考えています。
ロシアは歴史的にモスクワやサンクトペテルブルグを含め、ウラル山脈の西側と東側で政策も国家の歴史も大きく違いがあります。そして基本的には戦略的意味合いから西側にシフトし続ける必要がありました。ところがウラル山脈の東側からシベリアにかけて新たな政治的戦略の意味合いが出てきたため、ロシアとしては今後、そちらに力を入れたいわけです。その場合のシベリア開発において北朝鮮にその役目を負わせられるのではないか、そんなオプションがプーチン氏の頭の中にあるのではないかとみています。
特に注意が必要なのが北方四島を含む千島列島と樺太開発に北朝鮮とのパートナーシップを組む可能性がないとは言えない点です。
ロシアに行ったことがある方ならわかると思いますが、あの国も様々な民族の寄せ集めですが、東スラブ系とモンゴル系アジア人が割と入り乱れています。その中で東の開発は東スラブ系民族が上に立ち、アジア系に人材の供給を含めた労働力確保をしてもらうのが重要な戦略になります。それを今回の「包括」契約で将来のビジョンを内包させたとみています。
ではこれで面白くない思いをするのは誰か、といえば西側諸国はもとより中国は相当の不満を抱えているでしょう。それまで冊封関係、そして歴史的な友好関係をロシアに取られたわけです。平たく言えば略奪婚です。もちろん、中国は大人の態度をとるはずですが、中国にとっては目の上のたん瘤にならないとも限らないでしょう。
もう一つ、日本からすれば西郷隆盛的でちょっと古典的な考えかもしれませんが、ロシアの南下政策の再来を頭の片隅に置きたいところです。仮に、朝鮮半島有事が起きた場合、「包括」協定に基づき、ロシア軍が北朝鮮軍に援軍をし、それこそ、朝鮮戦争の二の舞にならないとも限らず、その場合、韓国国防が視野に入る一方、同時に中国が台湾有事を行う場合、日本は望まぬ二面作戦となりうる公算もあります。あまり考えたくないのですが、可能性のオプションとしては我々は意識しておくべきでしょう。
その点からすればどこまで下地ができているのかわかりませんが、岸田首相のこの夏の訪朝が水面下で検討されているなら強くそれを実行すべきだと思います。金正恩氏は岸田氏なら会うと見ています。(安倍氏では絶対に会わなかったと思います。)日本の東アジア外交は極めて重要な局面に入ってしまったといえるでしょう。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年6月20日の記事より転載させていただきました。