その後、「全面侵攻」は、「ドンバス戦争」の諸要素を中核に抱えこんだ形で展開した。戦争は、拡大東部地域に限定される形で行われたのだ。特に2022年末までにハルキウとヘルソンをウクライナ軍が奪回(ロシア軍が両地域から撤退)してからは、「全面侵攻」は「拡大展開ドンバス戦争」としての性格を色濃く持つことになった。
今回のクルスクでの戦いは、明らかに「拡大展開ドンバス戦争」とは質的に異なる新しい段階を示している。決定的な事実は、ウクライナ軍が積極的に新しい戦線を開いた、ということである。これによって「拡大展開ドンバス戦争」とは言えない戦局が、二年ぶりに生まれてきた。いわば「新たな全面侵攻」に近い形が、ウクライナ側の積極攻勢によって、生まれてきたのである。
ロシア軍は、塹壕を作って原子力発電所と州都クルスクを守る体制に入っている。ウクライナ軍を国境の外に押し出すのは、時間をかけて遂行を目指す作戦となるようだ。ロシア側は、ウクライナの越境攻撃の規模を認識し、それに対応した体制を作ろうしている。
ウクライナ北部/ロシア南部国境付近クルスク方面で、新しい本格的な戦線が開かれようとしているのである。
だがもしそうなると、相当程度の部隊を集結させたロシア軍が、優勢になった場合、国境線で止まる保証がなくなる。ウクライナは、ひとたび敗走を始めれば、首都に近い戦線での決壊を見ることになり、非常に危険な状態に陥る。
クルスクの国境は、距離では、モスクワよりも、キーウにより近い。
クルクスの戦いは、ロシア・ウクライナ戦争の新しい一段階を作り始めている。