2022年2月24日以降、ドンバス戦争はどうなったのか? 大きな戦争の勃発に圧倒されて終了となったのか? あるいは吸収統合されたのか? ひょっとしたら実はまだ二つの戦争が併存して起こっているわけではないのか?

これらの問いは、簡単には回答できない深い問いである。ただ、これだけの注目を集めているにもかかわらず、あるいはだからこそ、これらの問いは回避されてしまう傾向がある。

私は、ドンバス戦争は終わっていないと考えている。これは危険な思想である。なぜならこの考えを表明すると、たとえば日本のような国では、「篠田は、ドネツク人民共和国やルハンスク人民共和国の独立主体性を認めるのか!遂に正体を現したな、隠れ親露派め!おーい、みんな、篠田は親露派だ!陰謀論者だ!プーチンの味方だ!みんなで非難しよう!」といった糾弾に遭遇する可能性があるからだ。

だが仕方がない。22年2月にドンバス戦争が終了になった、と言える根拠がない。続いていると考えるべきだ。

それでは「ドンバス戦争」は、「ロシアの全面侵攻」に吸収統合されたのか? あるいはまだ併存しているのか? 私は、吸収統合がより実態に即した概念構成だが、それは「ドンバス戦争」の要素が完全に消滅したことを意味しない、と考えている。なぜならドンバス戦争をドンバス戦争として引き起こして継続させた要素は、まだ存在しているからだ。

ロシアは、二つの「人民共和国」の併合を宣言して、全面侵攻を開始した。大きな状況変化であった。しかし併合は、むしろ「ドンバス戦争」の諸要素を、「全面侵攻」が引き継ぐ形で行われた、と言う方が、妥当だろう。

22年2月に新しい劇的な戦争が起こったことは事実である。ロシアがウクライナの首都を陥落させようとしたのだから。

しかし実はロシアのキーウ陥落作戦は、22年4月初旬には打ち切りになった。その後2年半にわたって同じ戦争と思われるものが続いていることを考えると、1.5カ月間というのは、非常に短い特殊期間であった、と言うことができる。